ss | ナノ




「……手を離せ、猿飛」

「独眼竜の旦那こそ、手を離してくれない?」



頭上で火花を散らしあう戦国武将と戦忍の二人。
何故こんなことになったのだろう、となまえは思い出してみようとするが、いつものことなのでもはやどれがどれだか思い出せない。というかどうでもよくなってきたようで、二人にばれないように下を向いて欠伸をひとつ。

気が付いてはいるかもしれないが、それを見事に無視して二人は睨みあう。いや、睨み合いの方がまだマシだ。
政宗の方は相手を射殺すような視線で睨んでいるものの、それを笑顔で受け止めた上で計り知れない圧力を放っている佐助。どちらも怖いがどちらも退かない。
もういっそ逃げ出したいのだが、彼女の腕を掴むその力だけは弱まることがない。いい加減痛くなってきたので、なまえは自ら逃げ道を作りだすことにした。


「あの、お二方。いい加減離して頂きたい…」

「だとよ猿飛。離しやがれ」

「何言ってんの、なまえちゃんは竜の旦那に言ったんだよ?」


いや、最初にお二方、と前置きしたではないか。呟くが、戦国武将と戦忍はある意味二人の世界に突入していて聞いていない。
良くも悪くも、なまえの為に争っているらしいのに当の本人を置いてけぼりにするのはいか様なものか。


無言のまま殺気を放つ政宗と佐助。もう何度目かもわからない溜息を吐くなまえ。更に溜息をついて幸せを逃がしてやろうとしたものの、その瞬間別の音が漏れた。


ぐぅ、という、何とも気の抜ける音が。


暫しの沈黙。

沈黙を破ったのは、佐助の朗々とした声だった。


「なまえちゃん。一緒に茶屋にでも行こうか」


行く、そう言って彼女が頷くよりも早くに、佐助は動き出していた。次の瞬間には周囲の景色が目まぐるしく流れていて。
足元の方で、政宗が悔しそうに佐助へ罵詈荘厳を吐いているのが聞こえた。






「何で、仲良く出来ないんだろう」

「そりゃー一応恋敵だし?」


冗談めかして言う佐助だが、先程や以前の様子からして本気であろうことをなまえは知っている。
手を握って城下へと向かう佐助の背中に、ぽつりと独り言を零す。


「私は二人とも好きだ。半分ことかは駄目かな?」

「あはは、なまえちゃんは本当に純粋に俺様たちが好きなんだね。でも、俺様や竜の旦那は不純な気持ちであんたが好きなの。だから、無理だよ」


いつのまにか温かい温度に包まれていて、ああ、今佐助に抱き締められているんだとなまえの頭が遅れて理解する。

少女を抱き竦めたまま、戦忍ではなく一人の男として、佐助は小さく唇を動かした。





半分こ、なんてイヤ





「Hey猿飛! 今日はテメェなんざに後れを取らねーからな!」

「はいはい、寝言は寝てから言ってよ竜の旦那」


取りあえず、落ち付いた暮らしが欲しいと思った。


END

08.1114.


[] | []

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -