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今日は月が出ていない。闇夜を照らすものが何もないということに、佐助は酷く安堵した。朔の晩は彼女に、なまえに会える。敵対していても、逢瀬が許される間柄でなくても、例え忍失格だとしても、構わない。

振り向けばそこには、既になまえが立っていた。
いつものように嘘臭い笑みを浮かべて、佐助は冗談染みた語調で言う。


「会いたかったよ、なまえ」

「寝言は寝てからどうぞ。その間に寝首をかかない自信はないけど」


そう答えるなまえの表情は暗がりの中にありよく見えない。ただ、声だけは普段どおりに飄々としていた。つくづく似た者同士だな、と佐助は思う。

似た者同士だからこそ、今なまえがどんな表情をしているのかが手に取るようにわかった。それをすぐに口に出してしまうほど、野暮なことはしないけれど。佐助は、戦忍にしては薄く感じるなまえの身体を抱き締めた。彼女の肩が小さく震えたのは、気の所為ではないはずだ。


「俺様となまえが……平和な時代に生まれられたらよかったのに」

「私は平和な時代なんて知らないよ。あんたも同じでしょう」

「それでも、もし生まれ変われたらさ、」


あまりにも強く抱き締められて、なまえがその言葉の続きを聞きとることはできなかった。
それでも、絞り出したようにかすれていた佐助の声が苦しげだったのはわかる。それはそうだろう、戦乱の中に生き方を見出す忍ともあろうものが、もしも生まれ変われたらだなんてそんなこと。

あまりに悲しすぎて、いっそ笑えてくる。


「ちょっと、俺様一世一代の大告白を笑い飛ばすって酷くない?」

「いや、違う違う。気持は、嬉しいよ」


本当にそうなったらいいのにね。

なまえは心の中で呟く。しかしどんなにそう思おうとも、二人が並んで呼吸できるのはこの暗闇の中か、戦場で敵対者としてか、そのどちらかでしか有り得ない。
例えば運命を定める神がいるのだとしたら、その神とやらを暗殺してやりたい気分だ。


「生まれ変わりがないとしても、一夜だけ。この夜だけでいいから、俺様だけのなまえでいて」

「もう、聞き飽きた。でも夜は絶対に訪れるから……また、会えるさ。私か佐助、どちらかが死ぬまでは」


俺様より先に死なないでね。そう言って佐助はなまえと唇を重ねる。きっと彼女の頬を伝う一筋の涙だって、この暗闇が見せた幻だ。籠手を外さぬままの両手でなまえの頬を包み込み、もう一度荒っぽく口付けを交わす。抗わないのは、抗えないのは、なまえ自身も来世に夢を見ているから。

この世界が平和なら、自分たちが忍じゃなかったら、どうか一夜だけ、だなんて言わせはしなかったのに。




One night only




君と僕とが交わした口付けは

闇夜が魅せた幻影なんだ。

それでもいいからどうか、どうか一夜だけ。




END

もしも生まれ変われたら、     。
08.1120.


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