『美坂家の秘め事』87
声を掛けられた拓弥は栞の顔を見て微笑んだ。
「直弥も優弥も久々の全員の食事が嬉しいんだよ。でも二人ともほとほどにな。食事は楽しい方いいし、そうだよな栞?」
(やっぱり拓兄は違うなぁ…)
穏やかな笑顔の拓弥の言葉に聞き惚れた。
「二人とも分かっ……ンッ」
「しーちゃん、どうしたの?」
「え?あ…ううん、何でもない。ちょっと舌噛んじゃって…」
心配そうな顔で覗き込む優弥に笑顔を向ける。
「ほ、ほら…ご飯食べよう?ね?」
栞は二人を促した。
二人とも拓弥の言葉が効いたのかようやく大人しくなって箸を持つ。
栞はホッと息を吐くと目の前の拓弥を睨みつけた。
さっき言葉を詰まらせた原因を作った張本人は何食わぬ顔でビールを飲んでいる。
しかしテーブルの下では…拓弥の足が栞の足を割って奥へと滑り込んでいる。
(信じられないっ…)
拓弥の足は器用に栞の太ももを撫でている。
それはとても足とは思えない繊細な愛撫で栞は食事が進まなくなってしまった。
「栞、食べないの?」
頬杖をついた拓弥が首を傾げている。
(誰のせいだと思ってるのっ!)
本心を言えたらどんなにスッキリする事かと思いながら栞は箸を持っておかずを口に運んだ。
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