『美坂家の秘め事』86
さっき拓弥に舐められた唇に指でソッと触れる。
そこだけが熱を持って熱いような気がする。
(拓兄って彼女とかにすっごい甘甘になるタイプだよね)
どんなに贔屓目に見ても今まで付き合ってきた彼氏の中に拓弥のように優しい男はいない。
拓弥と付き合う女性はみんなあんな風に扱ってもらっていたのかと思うと胸がチクンとする。
(でももしかしたら今は私がその立場…?)
彼女とセフレじゃ全然違うのに、拓弥の態度はそう勘違いしても仕方がない。
栞は指で唇に触れたままほんの少し頬を染めた。
その一部始終を見ていた拓弥は誰にも気付かれずにニヤッと笑った。
「ね、ねっ!しーちゃん!」
横から声を掛けられて栞は弾かれたように顔を上げた。
優弥が嬉しそうにこっちを見ている。
「間接キスだね!」
優弥が缶を指差している。
高校生らしい発言に栞も思わず頬が緩んでしまう。
「バッカじゃねーの!間接キスで喜べるなんてやっぱ童貞くんはすげぇー」
「んだとぉ!!」
優弥がテーブルに手を叩きつけて立ち上がる。
直弥も対抗心を燃やして立ち上がった。
「もう二人とも!食事中なんだから大人しくしてよ。それと直兄はちょっと調子に乗りすぎっ!拓兄からも何か言ってよぉ」
いつまでも大人しくならない事に栞は拓弥に収拾を任せた。
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