『美坂家の秘め事』5
「分かったらさっさと自分の部屋に行ってしてきたらー」
ようやく話の決着がついたように見えた栞はテレビのリモコンを取ろうと手を伸ばした。
「さてはお前した事ないな?」
「はぁっ?」
栞は顔を上げて拓弥を見た。
「した事あるのか?ないのか?どうなんだ?」
「だからー何が?」
バカにしたような拓弥の口調にカチンと来たがさらに栞の怒りを買うような行動に出た。
「フェ・ラ・チ・オ」
まるで子供に言葉を教えているかのように大きく口を開けて一語一語はっきりと発音した。
栞は開いた口が塞がらなくてポカンと口を開けたまま拓弥を見上げている。
「どうした?経験がなくても恥じる事はないぞ。」
「ばっ、ばっかじゃないの!!」
兄拓弥の信じられない言葉の数々に栞は目眩がした。
「どうしちゃったの!拓兄おかしいよ!」
「だから俺はいたって正気だ。ただ溜まってるから抜いて欲しいだけだ」
いや…だからそれ自体がおかしい事だってどうして分からないかなぁ…。
何を言ってももう無駄なのだろうか。
「分かった!」
拓弥は栞の言葉に少し驚いた表情を浮かべた。
拓弥は栞の言葉に不信感を感じながら探るような表情で栞の考えを読み取ろうとする。
「抜いてくれって言われても無理!ムードってものがあるでしょ!いきなり出されたって握る事も口に入れるのも無理ですっ!」
きっぱり言い切った栞の言葉に拓弥は怪しい微笑を浮かべながら頷いた。
「ムードがあればいいわけだ」
ギシッと音がして拓弥は栞の横に座った。
「はい?」
「栞をその気にさせればいいんだろ?」
さっきまでとはうってかわってその瞳は獲物を狙う瞳のように輝いてその声は獲物を惑わすように濡れている。
「た、拓兄…?」
急に雰囲気の変わった拓弥から逃れようと後ずさりする栞。
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