『美坂家の秘め事』57
「違うなら違うって言えよ」
言えるわけがない。
拓弥の言うとおりだあの日から正確には終わった瞬間から栞の意識はずっと拓弥に向けられていた。
けれどそうだと口に出す事はためらってしまう。
「俺はさ…気になってたよ」
トンッと栞の体が後ろに倒れた。
拓弥は車に背中を預けてもたれ掛かっている。
さらに体が密着したことよりも拓弥が話す言葉の方が気になって仕方がない。
「栞がどう思ってんのかなーって」
(落ち着けー、なんかこの展開はおかしい)
急に怪しい雰囲気が二人を包む。
拓弥の口から発せられる言葉と一緒にフェロモンも垂れ流しになっているんじゃないかと思った。
そう思わせるほど拓弥の言葉は栞の胸の鼓動を狂わせる。
「栞の気持ちが知りたいんだ」
(これって…これって…告白!?)
頭の中では兄と妹の禁断の恋愛がぐるぐる駆け巡る。
確かに好きだけど決してそういう好きという意味じゃなくて…。
「可能性ってある?」
「か、可能性って…そんないきなり言われても…」
(なにこの展開!?嘘でしょ、嘘でしょーー!?)
いきなり少女マンガの中に放り込まれたような気分だった。
昔読んだ兄妹の恋愛マンガに絶対ありえないって舌打ちしていた自分がまさか渦中の人になるなんて…。
「いきなりなんかじゃないだろ?」
「だ、だって今までそんな素振り見せたことなかったよね?」
拓弥の言葉から察すれば随分前から好きだったと聞こえる。
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