『美坂家の秘め事』49

「フゥ…」

「栞ちゃん、どーしたの?ため息なんて珍しいじゃーん」

 声を掛けてきたのはバイト仲間の佐々木学くん大学一年の19歳。

 トレードマークは黒ブチのインテリメガネと肩の辺りまで伸ばした長髪。

 今は後ろで一つに束ねている。

「俺がいつでも慰めてあげるってー」

 顔は悪くないんだけど…この性格がねぇ…。

「全然へーき。慰めてもらうような事何もないから」

「じゃあ俺が慰めてもらおっかなー」

「って…慰めなんか必要ないくらい元気じゃん」

「違う違うー!元気過ぎて困ってるから栞ちゃんに慰めてほしーの!」

 と、学の視線が下がる。

 栞もつられて学の視線を追った。

(このノリなんか拓兄と一緒じゃん)

 視線を戻した学がニッと笑って栞の顔を覗き込んだ。

「間に合ってます!」

「ちーがうってー。俺が間に合ってないんだってー」

 学は全然めげる様子もなくニコニコ笑っている。

 正直ちょっと面倒だなと顔が強張っていくのを感じる。

 何とか話を変えたいなぁと思っているとお客さんが店に入ってくるのが見えた。

「あ!ジョシコーセー!」

 栞は入り口を指差した。

 セーラー服を着た女子高生が三人キャッキャッ言いながら店内に入って雑誌コーナーへ向かった。

 学はバッと振り返るとタッタッと隣のレジに立った。

(アホだ…絶対アホだ…)

 それでもしつこい学を遠ざけられた事に栞はホッと胸を撫で下ろした。


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