『美坂家の秘め事』47
拓弥は手を伸ばして栞の髪に触れた。
栞はビクッとして慌てて拓弥の手を押さえつける。
「優弥に見つかったらヤバイって!」
「大丈夫。まだ店ん中だよ」
拓弥は店の中に向けていた視線を栞に戻した。
栞も自分の目で確認すると手を下ろした。
「で…どう?良くなかった?」
拓弥は栞の髪を指に巻きつけて弄んでいる。
(分かってるくせにどうしてそういう聞き方するの?)
栞はムッとしながら拓弥を見たが拓弥の瞳はからかってるような感じはしない。
ベッドの中にいる時のような熱っぽい瞳をしている。
「そんな事ないけど…」
ジッと見つめられると心の奥底まで見透かされているような気がして落ち着かない。
「俺はさ…」
グッと拓弥の顔が近づくとタバコの匂いに交じって柑橘系の匂いがした。
栞は思わずゴクッと喉を鳴らした。
(え…っ?)
けれど拓弥はそのまま運転席に座りなおして前を向いてしまった。
栞が不思議に思ったすぐ後に車のドアが開いた。
「お待たせ〜」
元気のいい優弥の声が車内に響いた。
「お帰りー」
栞は気付かれないように笑顔を作ると拓弥は何も言わずに車を発進させた。
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