『美坂家の秘め事』9
あと一押し。
拓弥の心の声。
どうしよう。
栞の心の葛藤。
二人の間にある目に見えない微妙な距離が徐々に縮まっていく。
「こんなの挨拶だろ?向こうじゃ普通にしてる」
「まうすとぅーまうすは挨拶じゃないと思う」
額をつけたまま話をしているせいか口を動かすたびに相手の唇に微かに触れる。
その時に感じるお互いの吐息がさっきよりも熱くなっているように感じる。
「じゃあこれは何…?ちゅぅっ」
拓弥は唇で挟むような啄ばむキスをした。
「ただの…キス」
二人の唇はどこがというわけでもなく触れ合っている。
「そう…ただのキスだね」
いつの間にか二人は唇をあまり動かさないように話していた。
そうしないと触れ合った部分から伝わる相手の熱が離れてしまいそうだったから…。
「何でキス…するの?」
「んー栞が可愛いから」
「何それ…」
栞の少し不服そうな声に拓弥は次の言葉を考えた。
「ずっとこうしたかった…」
少し掠れた囁くような声が栞の鼓膜を震わせる。
「ったく調子のいい…」
口調は不満そうだが声音はまんざらでもなさそうだ。
「栞に好かれる為ならどんな男にでもなるよ」
チュッ−
チュッ−
そしてとうとう拓弥のキスに栞は応えるように唇を動かした。
今まで閉ざされていた禁断の扉はついに開かれた。
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