夏 【5】
トボトボと家に帰って来てからすごい事に気が付いた。
麦わら帽子持って来ちゃった…。
もしかしたらこれってチャンスなんじゃない?
これを返しに行くって口実でまた耕太さんに会える。
今日で最後なんだし…告白してみようかな。
プールが終わる頃を狙っていつもよりお洒落をして家を出た。
さすがにプールの前で待ってるのは恥ずかしくて少し離れた所で待つ事にした。
中から一人また一人とアルバイトの監視員達が出て来る。
耕太さんはまだ中かなぁ?
三、四人出てきたけどその中に耕太さんは居なかった。
もしかしてもう帰っちゃったの?
不安になってプールに近付いて外から中の様子を伺った。
プールサイドもちろん誰も居ないプールの水面も風で少し揺れている程度で人が居るような気配はない。
帰っちゃったんだ残念…。
持ってきた麦わら帽子に視線を落としてふぅと息を吐いた。
ガチャッ−
音がして慌てて顔を上げると見覚えのある髪型が目に入った。
あっ!やっぱりまだ居たんだ。
その人は入り口に鍵を掛けて振り向くとすぐに私に気が付いた。
「奈緒じゃん、何やってんのー?」
呑気なその声に嬉しくなって私は思わず駆け寄る。
「これ…返しそびれて…」
持っていた麦わら帽子を差し出した。
「あー良かったのに。どうせここのだしぃ」
麦わら帽子を受取るとプールの方を指差してニヤッとした。
なんだ…耕太さんのじゃなかったんだ。
せっかく持ってきたのにちょっとがっかり…。
「でもわざわざありがとなー」
耕太さん持っていた鍵で入り口のを開けて中に入ろうとして足を止めた。
「中…入る?」
突然の言葉に驚いたけど私は黙って頷いた。
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