大好き 【3】

 杏の家に着くと連絡を受けていた耕介が外で待っていた。

「お兄ちゃん…」

「耕介…悪い…」

 車を降りた二人に耕介が厳しい顔をして近付いた。

「杏、家に入れ。親父が待ってる」

 耕介の強張った声で不安になる杏が啓太の顔を見上げた。

 啓太は安心させるように杏の顔を見て微笑むと静かに頷いて肩に手を置いた。

「大丈夫。俺がついてる」

 啓太の言葉に後押しされるように杏が歩き始めると啓太も寄り添うように歩き始めた。

「啓太は帰ってくれないか」

「いや…俺から親父さんに話したいんだ」

「今日のところは帰ってくれ」

 耕介が杏の腕を引っ張って啓太から引き離した。

「お兄ちゃんっ!!」

「家に入ってろ!」

 耕介は引きずるように杏を家の中に連れて行こうとした。

「ま、待ってくれよ!ちゃんと話をさせてくれ、杏とはいい加減な気持ちで付き合ってきたわけじゃないんだ」

「イヤッ!お兄ちゃん離して!」

「耕介!話を聞いてくれっ」

 啓太と杏が必死に耕介にすがり付いても聞く耳を持たずに暴れる杏を家の中に押し込んだ。

 扉を叩くを音とノブを廻す音がせわしなく響く。

 背中で扉を押さえている耕介に啓太は掴みかかりそう勢いで近付いた。

「耕介!中に入れてくれ…頼むよ。これ以上杏に不安な思いをさせたくないんだ」

「それならどうして。杏の夢を知ってるだろう。保育士になって子供に囲まれる仕事に就きたいって受験だってあんなに頑張ってたんだぞ!!」

「それは…」

 苦虫を噛み潰したような顔をして怒鳴った耕介に啓太は何も言い返せず俯いた。

「…とりあえず今日は間が悪い。お前を信じていただけに親父のショックが大きいんだ」

「すまない…」

 がっくりと肩を落とした啓太に何か声を掛けようとした耕介だが何も言わずに家の中に入った。

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