大好き 【4】

「お兄ちゃん!啓くんは?ねぇ!啓くんは!!」

 中に入ると涙を流している杏が耕介の胸を激しく叩いた。

「啓太は帰った」

「嘘っ!啓くんは結婚しようって…」

 杏の体がぐらっと揺れて耕介は慌てて体を支えた。

「杏、杏っ!」

 呼びかけても杏は返事を返さないで耕介の腕の中でぐったりとしている。

「気を失ったか…」

「耕介、アイツは帰したか?」

 奥から青い顔をした父親が出て来た。

「あぁ…」

「おいっ、杏?杏ちゃん?」

 ぐったりとしている杏の姿を見て慌てて駆け寄って来た。

「啓太は帰ったと言ったら気を失ったみたいだ」

「そうか…」

「親父、アイツは杏と真剣に付き合ってたんだ」

 耕介は杏の左手を持ち上げると父親に向って見せた。

 薬指にはキラキラと真新しい指輪が輝いている。

「だからって…まだ18だぞ。それが妊娠って…まだ楽しい事とか友達と遊んだりとか保育士になりたいって」

「じゃあお袋は幸せじゃなかったのか?」

 父親は気まずそうに視線を逸らした。

 耕介は軽くため息をつくと杏を抱え上げて階段へ向った。

「啓太はいい奴だよ。まぁこんな事にはなったけど…」

「でも杏ちゃんはまだ18なのに…け、結婚とか子供とか…あんなに可愛い杏ちゃんがぁー啓太の野郎に手篭めにぃぃぃー」

 父親は頭を抱えて玄関でしゃがみ込んだ。

「手篭めって…。いつの時代だよ」

「杏ちゃんはそんなふしだらな娘じゃなぃぃぃ。天使のように愛らしいのに啓太みたいな野蛮な男はぁぁ」

「俺の友達を悪く言うなよ、親父」

 耕介は座り込んでいる父をよけながら玄関を上がって歩き始めた。

「あんまり意固地になって杏に嫌われても知らないからな」

 耕介の言葉がさらに追い討ちを掛けたのか父は声を上げて泣き始めた。

「親バカもほどほどにしとけっての」

 耕介は呆れながら階段を上がって杏を部屋へと連れて行った。
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