大好き 【2】

「もし女の子だったら俺みたいな男に簡単にかっさらわれるんだぞ?そんなの俺耐えられない」

「啓くん?」

 杏がキョトンとした顔をするのを見てクスクス笑った。

「なに?子供が出来たら俺が逃げ出すとでも思ってたの?」

 啓太にズバリ言い当てられて杏は気まずそうな顔をした。

「一人で悩んだんだろ?ごめんな」

 俯く杏の頭を撫でると立ち上がった。

 引き出しを開けて何か取り出すと戻って来た。

「本当は杏が卒業してから渡そうと思ってたんだけどね」

 啓太が持ってきた箱を杏の前に出してゆっくりとふたを開けた。

「啓…くん?」

 箱の中には花のモチーフに縁取られたダイヤの指輪だった。

 啓太は指輪を取り出すと杏の左手の薬指にはめた。

「順番逆になっちゃったけど…結婚しよう。杏も生まれてくる子供も俺が守るから」

「啓くん…」

 杏は啓太の手を握り締めながらまた目に涙を浮かべた。

「杏…返事して?」

「ぅん…うん…」

「ありがとう。じゃあ家に帰ろう?ちゃんと親父さんに話して許して貰わないとダメだろ?」

 杏はようやく頷いた。

 妊娠してる事が分かってからずっと不安だった。

 でも大好きな啓くんの子供だからどうしても産みたくて短大に合格していたけど行かないで産むってお父さんに今日打ち明けた。

 お父さんなら喜んでくれるって思ったのに…。

 杏は薬指の指輪をそっと撫でていると視線を感じて顔を上げると優しく微笑んでいる啓太と目が合った。

 大丈夫…啓くんが居てくれたらきっと大丈夫。

「明日卒業式終わる頃迎えに行くからね。」

 杏を送る車の中で啓太はずっと手を繋いでいた。
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