大好き 【1】

 明日の卒業式を前に私は家を飛び出した。

 原因は父親とケンカしたから。

 10歳の時に母親が死んで6歳上の兄と私を男手一つで育ててくれた大好きなお父さん。

 だから私の味方をしてくれると思ったのに…。

 あんな頭ごなしに怒るなんて思いもしなかった。

 それに頬を思いっきり叩かれたから口の中が血の味がする。

「杏?これで冷やして…」

 啓太が濡れたタオルを持ってきて杏の頬に当てた。

「啓くん」

 杏が啓太の首に縋りつくように抱き着くと啓太は優しく抱きしめた。

「ごめんな。落ち着いたら家帰ろう?俺もちゃんと親父さんに頭下げるから、な?」

「嫌ッ!あんな家絶対に帰らない!お父さんなんか大嫌いッ」

「杏!そんな事言うもんじゃないだろ」

 啓太は体を離して杏に厳しい表情を向ける。

「耕介には杏はうちにいるってメールしておいたから」

 耕介は杏の兄で啓太の親友。

 そのためか二人が付き合い始めたのもごく自然な感じで杏の父もこれといって反対する事はなかった。

「どうして俺に言わなかったの?」

「だって…」

「そんな大事な事、まず俺に言わないとダメでしょ?」

 父親とケンカして家を飛び出して向った先は啓太のアパートだった。

 泣きながら部屋に飛び込んだ私を訳も分からないまま抱きしめてくれた啓太に事情を話したのはほんの数分前。

「だって…」

「だってじゃないでしょ?本当に杏は何をするか分からないから俺は心配で心配で仕方がないよ」

「嫌いになっちゃう?」

「ばーか、嫌いになるわけないだろ?」

 涙で潤んだ瞳で見上げる杏の頬にキスをした。

「だから誰よりも先に教えて欲しかったんだよ?」

「でも怖かったんだもん。啓くんに嫌われたらって思ったら…」

「そうだね。正直怖いかな…」

 啓太の言葉に杏の表情が強張った。

 啓くんに嫌われてしまったらもう誰も頼る人が居なくなっちゃう…。

[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -