女々しい俺の恋 【12】
ホームに降りてホッとしたのも束の間歩き出そうとした俺は後ろから引っ張られた。
「き、桐谷さん…?」
桐谷さんは下を向いたまま俺のスーツを掴んでいる。
何も言わないでただ立っている俺たちを残して電車は発車した。
「あ、あの…どうしたの?」
何も答えずに下を向いたままでどうしていいか分からないけれどこのままここに居ても好奇の視線を浴び続けるだけだ。
夕方のラッシュにホームで黙ったまま男女が二人立っている姿は誰がどう見ても訳在りにしか見えないのだろう。
通り過ぎる人達はあからさまに俺達に視線を向けてくる。
「と、とりあえず外に出ようか…」
俺が声を掛けると桐谷さんはようやく手を離して小さく頷いてくれた。
改札を出て少し歩くとベンチがあって俺はそこに桐谷さんを座らせて近くの自販機でコーヒーを買ってきて手渡した。
「どうしたの?」
聞いても返事をしない桐谷さんにどうしたらいのか分からない。
亘ならこういう時上手く対処するんだろうな…。
優しい言葉も掛けてあげられない俺はただ缶コーヒーを飲みながら桐谷さんが話してくれるのを待っていた。
「あの…私…」
もうコーヒーもとっくに空っぽになっていた頃、ようやく桐谷さんが重たい口を開いてくれた。
「入社した時からずっと…水口さん…」
震えている小さな声を聞きながら俺の心拍数は異常に跳ね上がった。
このシチュエーションは紛れもなく告白だ。
付き合った事はないけれど俺だって何回か告白された事はある。
桐谷さんって俺の事…。
その続きの言葉はもう分かっていたけれど俺は何も言わず言葉の続きを待っているとムードをぶち壊すような大きな声がした。
「ナルちゃーん!今帰りー?」
なんて間の悪い、なんて無神経、よりによって今出て来るか?
女の子が隣に居るのを見て分からない?
普通こんな雰囲気出してたらいくら友達でも遠慮するだろ?
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