女々しい俺の恋 【11】
他愛もない話をしながら駅に向っている最中も頭のどこかではいつも愛ちゃんの事があった。
愛ちゃんならこう言うよな、愛ちゃんならこうやって笑うよな。
愛ちゃんなら…愛ちゃんなら…。
どこまでも女々しい俺は隣にこんな可愛い子がいるにも関わらず、頭の中には酔っ払って醜態を晒す愛ちゃんがいる。
「俺って情けないよな…」
「そんな事ないですっ!水口さんは格好いいですっ!!」
駅のホームで電車を待っている時に思わず声に出した心の声。
桐谷さんは俺の上着の袖を掴みながら必死の形相で返してきた。
「えっ…あ、あの…」
驚いた俺は周りの目を気にしながら袖を掴み桐谷さんの手をほどこうと手を伸ばすと俺が触れるよりも早くパッと離して下を向いた。
うっわぁ…どうしよう。
俺の斜め下のその子は誰が見ても分かるくらい耳まで赤く染めている。
「す、すみません。変な事言ってしまって…」
「あ、えっと…うん、ありがと」
今にも消え入りそうな声に間抜けなで気の利いた事も言えない俺は思わずお礼の言葉を口にした。
「えっ…あっ…はい」
俺の言葉に顔を上げると赤い顔で照れくさそうに笑ってくれて思わず俺もつられて顔が火照るのが分かった。
それから電車に乗っても何を話していいのか分からずに気まずい沈黙が流れていつもならボーッとしている間に着いてしまう降りる駅も今日は何だかすごく遠く感じた。
「じゃあ…俺次だから」
次の停車駅を告げるアナウンスが聞こえて電車の速度が落ちると俺は桐谷さんに声を掛けて降りる準備をしながら心の中で安堵のため息を吐いた。
この年になっても女の子と二人で居ると間が持たない自分が情けなかった。
こういうのは亘が得意なんだよな。
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