『番外編』
2011☆SUMMER14

 二人にしか分からない話に、口を挟むわけにもいかず、庸介は気まずさから席を立とうかと考えた。

(俺があんな話したから……じゃないよな?)

 思えば最初に質問をした時の亮太郎の態度もどこか不自然だった。

 飲み会での軽いノリという感じからはかけ離れていたし、今も終始穏やかな尋とは対照的に亮太郎は神妙な顔をしている。

「あー、えっと俺は……」

 席を外そうとした庸介を引き止めたのは尋だった。

「コイツね。俺の妹のことが好きなんですよ」

「おいっ、尋ッ!!」

「いいだろ、別に。同じようなこと経験してる庸介さんに聞いてみたかったんだろ?」

(そうか、そういうことか……)

 きまりが悪そうに視線を逸らした亮太郎の態度と、それを見て可笑しそうに笑う尋に、ようやく合点がいった。

 自分と珠子よりは年齢差は小さいものの、友達の妹ということでその気持ちに躊躇するのは十分すぎるほど理解出来る。

「ちなみに、悩んでるってことは……まだ?」

「ええ、何というか……タクさんとことは逆で……」

 言葉を濁す亮太郎に、尋は込み上げる笑いを噛み殺して肩を震わせている。

「ああ……ブラコン、なんだっけ?」

「マジで凄いんですよ。尋を取られまいと、俺のこと目の敵にしてるくらい」

 ため息を吐きながらも、そう話す亮太郎の瞳が急に優しくなる。

 そんな顔を見ているだけで、どれほど好きなのかと聞くまでもなく伝わって来た。

「俺はブラコンから開放されるなら、こんなにありがたいことはないから、さっさと告白しろって言ってるんですけどねー」

 尋が笑いながら亮太郎を肘で突いた。

(まぁ、そんな簡単じゃないわなぁ)

 うるさい、と尋を窘める亮太郎を見ながら、庸介も便乗して口を開いた。

「早く告白したら? 同い年なら気も合うかもしれないし、そしたらwデート出来るし、夏ならプールとか海とかさ」

「庸介さんまでーーー」

「そうだそうだ。さっさと告白して、俺に自由で開放的な夏をくれ!」

「上手くいくって前提で話すな! 振られたらどうしてくれるんだよ」

 まだ振り向かせるために、じっくり攻めている最中だという亮太郎、早く仲間になるように心からのエールを送った。

 ◆  ◆  ◆

「あーもうっ! 植え込みに突っ込んでいくな!」

 真っ直ぐ歩かない拓朗に、庸介は堪らず声を荒げる。

「タクシー捕まえましょうか?」

 亮太郎が後ろから笑いながら声を掛けてくれたが、横でフラフラ歩く拓朗をチラリと見て首を横に振った。

「この状態でタクシーに乗せるのは勇気いるな。もう少し酔いが醒めるまで待つよ」

「たしかに」

 タクシーに乗って気分でも悪くなられたら、それこそ最悪の展開が待っている。

 そんなことになるくらいなら、公園で一夜を過ごした方がまだマシだと思う。

「じゃあ、俺達も付き合いますよ。なぁ、尋」

 亮太郎は反対側に回ると、拓朗を支えるようにして歩き出し、尋もまた拓朗のカバンを手に持ったままニッコリ頷いた。

「いや、いいよ。タクの面倒なら俺一人でも十分見れるから。お前らは先に……」

「飲ませた俺達にも責任あるんで」

 意気投合した三人が話に花を咲かせている途中で、ようやく目を覚ました拓朗にさらに酒を飲ませたのは、何も亮太郎と尋だけではなかった。

 同士を見つけて気分の良い庸介も、その後のことも考えず拓朗に酒を勧めてしまった。

 仕事仲間以外の同年代の友人は久しぶりで、おまけに恋愛ごとを話せる数少ない友人となった二人とは、話す話題は尽きる事を知らず、庸介は二人の申し出をありがたく受け入れた。

 拓朗を連れてどこか座れる場所を探そうと歩き出したが、なかなか見つからずフラフラしていると、拓朗の肩を支えていた亮太郎が声を上げた。

「あれ、北倉じゃん」

「あ、ほんとだ。センセー! 久しぶりじゃん!」

 亮太郎の視線を追った尋は、嬉しそうな声を上げると突然駆け出した。

 どうやら知り合いを見つけたらしい、二人連れに向かって走り出した尋に、亮太郎の足も釣られるように早くなり庸介も同じようにその背を追いかけた。

 拓朗を抱えた二人が尋に追いつくと、そこには掴まえられて困惑する男女の姿があった。

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