『番外編』
2011☆SUMMER13

「あーあ、寝ちゃいましたね」

 しばらくブツブツ言っていた拓朗も、今はテーブルの上に突っ伏して、規則的に背中を上下させている。

「寝かせとけばいいよ。まだ飲み足りないし、起きてるとうるさいから」

 ここまで酒に飲まれる拓朗を見るのは久しぶりで、不思議でならなかったが、飲み足りないのも起きているとうるさいというのも事実。

 庸介が新たに飲み物を注文して、仲介の拓朗不在という初対面同士で再開した。

 飲み始めて暫くは、二人が庸介の仕事について質問して答える、という業界への質疑応答が続いていたが、二杯三杯と空けていくにつれ、三人の間にあった微妙なぎこちなさは消えていった。

「ぶっちゃけ……親友の妹と付き合うのって、抵抗なかったんですか?」

 アルコールの力もあったのかもしれない、亮太郎が何の前触れも無くぶつけてきたプライベートな内容の質問。

 驚いた庸介が亮太郎を見ると、その顔はただの好奇心というだけではなさそうだった。

「抵抗がなかったわけじゃないさ。知ってるかもしれないけど、タマと付き合い始めたのは中学卒業と同時。15歳で俺は20歳。一般的に考えたらすげぇヤバイ奴だろ、俺」

 たしかに……と二人が声を殺して笑う。

「でも、逆に考えたらタクの妹じゃなかったら好きになってないと思うんだよな。20歳の俺にとって15歳はさすがに守備範囲外だったわけだし」

「じゃあ、どうして中学卒業してすぐ?」

 妹がブラコン過ぎて困っているという尋の質問に、亮太郎も興味深そうに庸介へと視線を向けた。

 庸介は運ばれて来たサワーに口を付け、あの時の自分の気持ちを思い出して口元を緩めた。

「ヤバイと思ったからだろうなぁ。たしかに小さい頃から可愛くて、俺にとっても妹みたいな存在だったけど、中3になって急に感じが変わってきたと思ったら、クラスの男子の話とか恥ずかしそうにし始めて……」

(あの時もタクはすげぇ怒ったっけ)

 怒る拓朗の傍らで自分も胸の奥がモヤモヤしているのを感じた、まだその時はどうしてそう思うのか気付かなかったが……。

 バレンタインに珠子が初めて、自分と家族以外にチョコを渡して、結果振られてしまったけれど、もうその頃には自分の気持ちを抑えられなくなっていたんだよな。

「無条件に信頼して手を伸ばしてくれるタマに、男としてしか見れない罪悪感はあったけど、何より他の男なんかに触らせたくないって気持ちが強くて、だったら俺の物にするしかないだろって」

「光源氏的な感じで?」

「いやぁ、それとは少し違うな。俺好みの女にしたいとは思わないけど、アイツが大人になっていく過程を一番近くで見ていたいとは思う」

 尋の質問に答えながら、脳裏に珠子の姿を思い浮かべた。

 付き合い始めてから一年以上が経ったけれど、たったそれだけの短い時間の中でも、珠子は見違えるほど綺麗になっている。

 この先どんな女性になるのか、楽しみだと思いつつも、高校を卒業してより広い世界に出た時に、自分以外の男に目を向けてしまうんじゃないかという心配もある。

 早く大人になって欲しいと思う反面、自分だけを見てくれる今の珠子のままで居て欲しいとも思う。

「って……コイツにとってみたら、ただのロリコンの変態らしいけどな」

 こんな酒の席で真面目に語ってしまい、急に照れくさくなって、軽口を叩いて半分ほど残っていたサワーを一気に流し込んだ。

 おかわりおかわり、と言いながら店員を呼び止めて同じ物を頼んだ庸介は、場の空気が変わったことに気付いて居たたまれなくなった。

(やべぇ、俺……また空気読めてねぇじゃん)

 自分は若いつもりでいたけれど、もしかしたら考え方がオヤジなのかもしれない。

 庸介の心配を他所に、尋の明るい声が場の雰囲気を打ち破った。

「だってさ、リョウ。いい加減グジグジ悩むのやめたら?」

(なんだ?)

 尋に肩を叩かれた亮太郎はやけに神妙な顔付きをしていた。

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