『番外編』
2011☆SUMMER12

 二人の不思議そうな視線が、自分の場違いな行動じゃないことにホッとして、庸介は自分も食べ物に手を伸ばしながら笑った。

「タクは気に入らないだけで、ちゃんと認めてくれてるから、な?」

 隣で物も言わず食べ続ける拓朗の方をポンと叩けば、不機嫌そうに視線を上げた拓朗に肩に乗せた手を振り払われた。

「別に認めたくて認めてるんじゃねぇ。仕方なくだ、仕方なく!! 珠子がお前のこと…………だって言うし、どこの馬の骨だか知れない奴よりはマシというだけの話だ。常に監視出来るからな」

(分かってはいるが、改めて言われると微妙だなぁ)

 途中で「好き」という言葉をうやむやに誤魔化したあげく、あまりの言われようはさすがに庸介もうな垂れる。

「ひでぇ……タクさん」

「さすがキングオブシスコンの名前は伊達じゃないなぁ」

 亮太郎と尋が苦笑いしていると、拓朗は食べ続けていた手をようやく止めた。

「そういえば、佐々木も妹がいなかったか?」

「いますよ。高2だから珠子ちゃんと同い年」

「彼氏は?」

「いない、いない。早く作って欲しいですよ」

(ああ……タクにもこの半分、いや十分の一でも妹離れが出来てくれたら)

 二人のやり取りを聞きながら、切ない望みを胸の内で呟くと、拓朗が急にテーブルを叩き立ち上がった。

「何を言っとるかーーー!!」

「タ、タク!?」

「タク……さん?」

 三人は立ち上がった拓朗を見上げた。

「彼氏なんぞ出来なくていい。今からでも遅くない、男がどれほど野蛮で卑劣な生き物か叩き込め!! そして休日は常に三ヶ月先まで家族で過ごす予定を入れて、午後七時以降の携帯への電話やメールは必ずチェックしろ!!」

(別な意味で……すげぇ注目浴びてんじゃん)

 もはや自分が少し有名だとか、変装したから安心だとか、そういう問題ではなくなっている。

(まだジョッキ一杯だろう?)

 拓朗の目の前に置かれた空のジョッキに視線を向け庸介は深いため息を吐いた。

「タク、まずは座れ。そして落ち着いて自分の言ったことを考えろ。何よりまず、お前も男だということを思い出せ」

 後輩だという二人はこんな拓朗は見慣れているのだろうか、指を差されてダメ出しされた尋は肩を震わせて笑っている。

 ここは自分が収めるべきだろうと、何とか拓朗を座らせ少し黙らせ、周囲からの興味を逸らさせた。

(それにしても……)

 さっきの拓朗の言葉は色々引っ掛かることはあるが、何よりも庸介にとって聞き捨てならない言葉があった。

「タク、お前……タマの携帯見てんのか?」

「見てない」

 キッパリと言い切った拓朗の言葉に、庸介がホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、拓朗は力いっぱい握った拳を震わせた。

「見たい!! お前といかがわしい内容のやり取りをしてるのかと思うと、俺はもう気が狂いそうだが、それをしたら珠子に嫌われるから、絶対に出来ない。でも見たい!! バレなきゃいいかと、夜中にこっそり部屋に忍び込んだけれど、可愛い珠子の天使のような寝顔を見たら、俺にはとても出来なかった。でも見たい!! なんというジレンマだ……」

 アルコールが入っているからだろうか、芝居がかった長いセリフを言い終えると、拓朗はテーブルの上で拳を握り締め、そのまま突っ伏して泣き出した。

(最悪だ……)

 逸らしたはずの周囲の好奇の視線が再び戻ってくる。

 こんな目に遭っている状況を嘆きながら、それでもこんな拓朗を嫌いになれない自分がいる。

「はいはい、安心しろ。お前に見られて困るようなメールなんて送ってないからな」

「当然だ!!」

 突っ伏していた顔を上げた拓朗の涙目に、もう掛ける言葉も見つからない。

 庸介は無言で拓朗の肩をポンポンと叩いた。

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