『番外編』
2011☆SUMMER11

「おいっ、ちゃんと歩け」

 店を出て歩き出した途端、横にいたはずの拓朗が歩道の街路樹にぶつかり、庸介は慌てて腕を引っ張った。

「珠子はー、俺のぉー」

「はいはい。世界で一番可愛い妹、な」

「そうっ! すっごい可愛いの! だからー、悪い虫が付かないように、俺が守ってやらなくちゃいけない! 珠子の平和はー、俺が守るっ!」

「……守るのは平和じゃなくて、貞操だけどな」

 拳を振り上げて声高に宣言する拓朗に、腕を抱えて歩く庸介はボソリと呟いた。

「んあ? なんか言ったか?

「何も言ってねぇよ。とりあえず、お前は一人で歩け!」

 前後不覚とまではいってないが、誰が見ても酔っている足取りで、拓朗が歩き始めると庸介は深くため息を吐いた。

「ははは……、ほんと面白いなぁ、タクさん」

「酒飲ませるとシスコンが悪化するって、……どんなだよ」

 庸介の後ろを歩くのは、拓朗の大学の後輩だという白石亮太郎と佐々木尋だった。

 拓朗によって半ば無理矢理連れ出され、向かった先で待っていたのがこの二人。

 ビアガーデンに飲みに行くと言われ、いきなり初対面の奴が交じるのもどうかと迷った庸介だったが、二人が快くオーケーしてくれたこともあって、久しぶりに仕事抜きで同年代と飲むことになった。

 初対面で何を話せばいいか…と、心配する必要がまったくないほど、この二人と自分達二人は似ていた。

 ◆  ◆  ◆

「初めまして……つっても、ぶっちゃけ俺らにとっては、よく知ってる人なんですけど」

 よく冷えたビールを一口飲んだ後、亮太郎がリズム良く枝豆を口に入れながら笑う。

「あー……」

 庸介はどう返事をして良いのか迷い曖昧に笑った。

 売れっ子ではないが、そこそこ世間に顔が知られているのは自覚がある、今日も一応だがメガネと帽子は着けていた。

「あーえっと、そうじゃなくてですね」

 無意識に帽子を目深にした庸介に、亮太郎の隣に座っていた尋が顔の前で手を振った。

「たしかに、そういう意味でも俺らは顔はよく知ってるんですけど」

 尋はそう言うとポケットを探り、取り出したものを庸介にチラリと見せた。

(あ……、俺がCMに出た携帯)

 尋は「妹が実はファンで、これ買うとポスター貰えるから」と笑い、ミーハーな妹ですみませんと頭を下げた。

「いやいや……」

 モデルという仕事は、クライアントに気に入られるかが大事だけれど、やはりファンはいてくれた方がいいし、それが知名度に繋がりやがては次の仕事を呼び込む。

(モデル業を廃業しようと思ってる俺は微妙なとこだけど)

 人気がなければ、事務所も簡単に辞めさせてくれるが、なまじ人気があると色々と難しい。

 まさにその難しい問題に直面している庸介にとっては非常に頭が痛い。

「それで……俺らがよく知ってるっていうのは……」

 亮太郎の声に慌てて意識を戻すと、亮太郎の視線はさっきから黙々と手羽先を食べている拓朗を見ていた。

「珠子ちゃんの……彼氏、ですよね?」

 声を潜めたはきっと自分を知っているという二つの理由からだろうが、本人の目の前では声を潜めても何も意味はなかった。

 手羽先に齧りついていた拓朗が、口に手羽先を銜えたままジロリと視線を上げた。

「ふんっ」

 荒い鼻息だけで何も言わず、視線を手羽先に戻して食べ終わると、皿に一つ残っていた手羽先に手を伸ばし、空になった皿を庸介の前に滑らした。

「はいはい、おかわりな。すみません……」

 拓朗の考えていることなど、手に取るように分かる庸介は、すぐに近くに居た店員を捕まえた。

 注文を終えて視線を戻すと、亮太郎と尋の二人から不思議そうな視線を向けられていた。

(あれ……もしかして、空気読めてない、俺?)

「えー……っと」

 学生のノリなんてよく分からないし、拓朗はどこか俗物的なものからは離れている部分がある。

 おまけに拓朗とは言葉を交わさなくても、お互いに考えていることを察することが出来て、今のもそれを汲んでしたことだったのだが……。

「いや……驚きました。タクさんはもっとこう……目の敵にしていると思ってたんで、なんか仲が良いのが意外っつーか」

 尋も同じ思いだったらしく、亮太郎の言葉にウンウンと頷いた。

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