『番外編』
2011☆SUMMER9

 二人で飲みに行っても、かのこにこんな酔った姿を見せたことはない、いきなりこんな姿で部屋を訪ねるのは如何なものかと悩む。

(止めておく……か、酔いのせいか眠いし……)

 熱いシャワーでも浴びれば、スッキリするだろうが、万が一にでも何もせず、かのこの部屋で眠ってしまった時のことを考えると、それはなぜか許せない自分がいる。

 くだらない男の見栄なのだが、素直にそれを認めることは出来ず、本音は奥にしまって蓋をして、週の初めだからと表向きの理由をこじつけることにした。

「あー、先越されたぁ」

 真っ直ぐ帰ることを決めた途端、悔しそうな夏目の声が聞こえ顔を上げると、自分達よりも少し離れた場所で一台のタクシーが止まるのが見えた。

「やられたな」

 本気で悔しそうな夏目の顔に、他人事のように笑おうとしたが、タクシーの前に立っている人物に笑おうとしていた顔が強張った。

(かのこ?)

 見間違いかと一度目を閉じて、再び目を開いたがやはりそこにはかのこが立っていた。

「……あれ?」

 どうやら夏目も気付いたらしく、タクシーを止めることも忘れて同じ方を見ている。

(何をやってるんだ、アイツは)

 離れていて話し声までは聞こえないが、タクシーに乗ろうとしているのは、かのこを含めて三人。

 三人は和真も夏目も良く知っている部下の女性社員だが、タクシーに乗る三人を見送る若い男に見覚えはない。

 遠目でも分かるほど派手な装いの男と、隣に並ぶと違和感を感じるサラリーマン風の男。

 タクシーを止めたにも関わらず、三人はなかなか乗り込まず男達と別れを惜しんでいるように見える。

「如月……さん、あの……」

 かのことの関係を知っている夏目が、彼らしくない困惑した声を掛けてくる。

 聞こえていたが、すぐに返事は出来なかった。

 酔っていたはずの頭が急速に冷えていくのが分かる。

 頭の芯まで冷えてしまうと、目の前の状況を分析するために、いくつかの仮説を立て始めた。

 合コンやナンパは女だけをタクシーに乗せようとしている雰囲気からすぐに消した。

 そして確信に近い仮説は、そう時間が掛からずに頭に浮かんだ。

(ホスト……か?)

 派手な男の雰囲気と今いる場所を考えれば、それが一番有力に思えたし、店に入る前に見た似たような三人組のことを思い出して、それが間違いないと結論付けた。

「あの、タクシー止めますか?」

「ああ、頼む」

 三人と男二人は何度も別れを惜しむように手を振り、ようやく乗り込んだタクシーが走り始めると、空車のランプが付いたタクシーが目の前に止まった。

(俺に隠すつもりか、素直に白状するつもりか)

 まさかこんな場所にいるとは思っていないのか、タクシーに乗ったかのこがこっちを見ることはなかった。

 タクシーに乗り込み、先に下りる夏目が行き先を告げるのを聞きながら、気持ちを落ち着けるためにシートに身体を預けて目を閉じた。

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