『番外編』
Be My Valentine7
ドアを開けた時にカウベルのような音がした店内はとても可愛らしいお店だった。
アンティークのなのか年代物のピアノが店の片隅に置かれ、お洒落な雰囲気なのにアットホームだと感じさせるのは、店に入って右側で若い女性が5〜6人集まって、大きなテーブルを囲んで楽しそうにしているからかもしれない。
何をしているのか気になった真子に、一緒に入ってきた女性は、そっちを指差した。
「もし良かったら参加しますか?」
「え、でも……」
「甘い物は好きですか?」
「え、ええ……好き、ですけど」
「それなら是非! 飛入り参加大歓迎! 今日は人数少なかったんで、ラッキーですよー」
「あの、えっと……」
「ああ、大丈夫! 料金は1000円頂きますけど、お好きな飲み物デザート、おまけに材料費込みで……」
「ほのかさん、お客様がビックリしてますよ」
二人の間に割り込んで来たのは、色白のぽっちゃりとした女性、長い髪を後ろで束ねてエプロン姿、手には大きなボールを手にしている。
「いらっしゃいませ。料理教室、ってわけでもないんですけど、バレンタインが近いのでお菓子作りを皆さんで一緒にって、集まっているんですよ。本も分かりやすそうでやってみると分からないことが多いし、失敗したら材料ももったいないからって話しているお客様がいらして、それならみんなで作ったらいいよね! なんて……ほのかさんの、あ……ここのオーナーなんですけど、もう鶴の一声で決まったんです」
(オーナー……?)
てっきり店員さんだと思っていた女性がひらひらと手を振っている。
とてもオーナーには見えないと思っていると、エプロン姿の女性には伝わったのか苦笑しながら頷いた。
「すみません、あんな人ですけど、一応オーナーなんです」
「あ、いえ……そういうつもりじゃ」
そんな失礼なこと、と慌てて顔の前で手を振る真子の前で、オーナーの女性は自然とテーブルを囲む輪の中に溶け込んでいる。
「もしお時間あるようでしたら、お客様も参加されませんか? さっきほのかさんも言ってたとおり、今日は少し人数が少ないんです。甘い物が苦手な男性向けのジンジャークッキーなので、嫌いじゃなかったら……ですけど」
「早く型抜き、しようよ!」
話している後ろからオーナーの女性が、声を挟んでくると、エプロン姿のは女性は目を吊り上げて振り返った。
「まだです! 生地寝かせてから、それよりほのかさんもリンを手伝って下さい」
「はぁーい」
怒られた子供のようにシュンとしながら手を上げて返事をする女性に周りから温かい笑いが起きた。
カフェというよりは、まるで友達の家に遊びに来たみたい。
自分も釣られるように笑ってしまうと、オーナーの女性が側に来て笑った。
「そうそう。ママが笑ってないと赤ちゃんも悲しくなっちゃうから。それに……混ぜたり捏ねたりの地味ーな作業は終わってるから、今から参加するのが絶対にお勧め!」
「ほーのーかーさん!」
悪巧みとばかりに声を潜める女性に、エプロン姿の女性がまた目を吊り上げると、逃げるようにカウンターの向こうのキッチンへと消えてしまった。
「でも、まあ……ほのかさんの言ったことは間違ってないかと。私も型抜きが一番好きなんです」
茶目っ気たっぷりに舌を出されると、今度は吹き出して声を出して笑わずにはいられなかった。
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