『番外編』
Be My Valentine3

 悩んでいるうちに明日になってしまって、結局何の用意も出来なかった。

 今さらと言っていたから用意したって雅樹が喜ぶとは思えない、でも……二人で初めて迎えるバレンタインなのだから何かしたい。

 そんなことを考えながらぼんやりと歩いていると、会社の前までたどり着き入る前に足が止まってしまった。

 勢いで来てしまったのはいいけれど、雅樹にどうやって渡すかまで考えていなかった。

 ここは雅樹の実家・お義父さんの会社、結婚したことで自分も身内になったのだから、……とは思ってもさすがに大きな顔をして入っていけるわけがない。

 恥じることではないのは分かっていても大きく張り出した腹部は隠しようがない、雅樹はきっとそういう意味で目立つことは避けたいと思っているはず。

 嫌がるだろうなと思っても止まった足は引き返そうとはしなかった。

 昔から雅樹ほど悪い子じゃなかったけれど、勉強一辺倒ってわけでもなかった、学校帰りにカラオケも行ったし、昼休みに抜け出してお好み焼きを買いに行ったこともある。

(そもそも……こんなことで尻込みするような性格なら、雅樹と付き合ったりしないものね)

 大企業のように門に守衛はいないらしい、傍から見たら不審者そのものだけれど、誰からに見つからないようにと祈りながら足を踏み入れた。

 こじんまりとはしているが二階建ての事務所の奥に平屋建ての工場、事務所の前に来客用らしき駐車場がある。

 駐車場を右に見ながら事務所の横を通り過ぎると、どうやら裏は従業員用の駐車場らしく、何台も停まっている中に雅樹の車も見える。

(フロントガラスの所に置いておくとか、ダメかな?)

 そんなことをすれば後で雅樹に何を言われるか分かったものじゃない。

 もう少し現実的なアイデアを考えようとした所に事務所のドアが開き誰かが出てきた。

(あ、嘘!)

 姿を現した雅樹の姿に、もしかしたら以心伝心? と喜んだのも束の間、雅樹の後ろに隠れるように小柄な女性も一緒にいた。

(どうしよ……、隠れなくちゃ)

 雅樹一人なら問題ないけれど、他の人が一緒では簡単に声を掛けられない。

 真子は慌てて近くの車の陰に隠れた。

「瀬戸さん、どうしたんですか?」

「悪いね、呼び出したりして」

 二人の会話はかろうじて聞こえてくる。

 一緒にいる時とは違う雅樹の声に驚いたけれど、それよりも雅樹の言った言葉に耳を疑った。

 毎日見ている昼のドラマにあるような光景に、まさかという思いが膨れ上がってくる。

「いいえ、実は私も瀬戸さんに渡したい物があったので」

「渡したい物って?」

 会話しか聞こえず二人の姿は見えなかった真子は、見つからないように顔だけをソッと出した。

 女性の姿がさっきよりもはっきり見える。

 自分よりもずっと若くて、二十代前半の彼女は若い子らしく、手入れの行き届いた髪を可愛いクリップで留め、小さめの唇は艶々としたさくらんぼ色をしている。

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