『番外編』
Be My Valentine2

 最近の雅樹は二言目には「大人しくしろ」と言う。

 妊娠中とはいえジッとしてるのは良くないと言ってもちっとも聞いてくれない。

 心配してくれるのはすごく分かるけれど、最近はそれが少し……ううんかなりエスカレートして、そこだけはまるで昔の雅樹のように横暴だったりする。

「私だってあの頃みたいに大人しく言うこと聞いてるだけじゃないんだからね!」

 携帯を手に握りしめたまま私は勇んで部屋を後にした。

 だいたい「あれもダメ」「これもダメ」って、とにかく朝から晩まで私の心配ばかりして、確かに心配してくれるのは嬉しいけどそんなに心配ばかりしてハゲても知らないんだから。

 本人を前にしては絶対に口に出来ない悪態を心の中で吐き出した。

 こういうのって胎教に良くないと思うけど仕方ないと思うことにする。

「よいしょ……」

「大丈夫ですか??」

「あ、はい……大丈夫です。ありがとう」

 バスから降りるにも身軽な時とは違う、先に降りた若い女性が振り返って声を掛けてくれて笑顔で返した。

 でも不思議……他の人だとこうやって素直にありがとうって思えるのに、どうして雅樹が言うとカチンと来るのかな。

 きっと今と同じような場面に遭遇したら雅樹だって同じように心配してくれたはず、でもきっと……今みたいに笑顔でお礼なんて言えてないと思う。

(問題なのは……雅樹の言い方なのよ!)

 バスを降りて雅樹の会社への道順を思い出しながら歩き、つい先日の出来事を思い出した。

「何を見てるんだ?」

 休日なのに書斎に籠って仕事をしていた雅樹が出て来たことにも気付かず本に夢中になっていた私は驚いて顔を上げた。

「お菓子の本! 簡単そうだったから」

「お菓子?」

 手に持っていたコーヒーのカップをテーブルに置くと雅樹は首を傾げながら向かい側に座った。

「もうすぐバレンタインでしょ? だから何か作ろうと思って! こうやって見てると結構簡単そうだし……ガトーショコラにしようかな? ね、材料買いに行きたいから連れてって?」

「そんなもん作る必要ねぇだろ」

「え?」

 本に載っていた材料をメモしようとメモ帳に手を伸ばしかけた私は雅樹の言葉に動きを止めてしまった。

(そんなもんって……)

 まさかそんな風に言われるなんて思いもしなかった。

「でも……バレンタイン、だし……」

「別に今さらだろ。それに俺、甘い物好きじゃねぇし」

(今さらって何よ、今さらって……)

 あんまりにもむかついたからあの後は結局昼寝(不貞寝)しちゃったんだよね。

 確かに結婚したし今さらなのかもしれないけど、二人にとって初めてのバレンタインだってことが一番大事なのよ?

「はぁぁぁぁっ」

 歩きながら大きなため息を吐き、明日に迫ったバレンタインのことを考えるとますます気持ちは落ち込んだ。

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