『番外編』
Another one13

 二人とも黙り込んだままどのくらいの時間が過ぎたのか分からない、麻衣も陸も硬く唇を結んだまま時だけが過ぎて行った。

 秋の夕暮れは早く部屋の中に陽が差さなくなるとすぐに暗闇が訪れた。

「陸……仕事でしょ? 準備しないと……」

「仕事なんか……行けるわけないだろっ! なんでそんなこと言うんだよ! 別れたいなんて分かんないっ!」

「そんなこと言わないで……仕事、行かないと……」

「麻衣!? 本気で言ってるの? ねぇ、本当のこと言って? 俺と別れたいなんて嘘だろ?」

「…………」

「誰かになんか言われた? 店の奴になんか嫌なことされた?」

 立ち上がろうとした麻衣は陸に手を強く引かれてベッドに引き戻された。

「絶対別れないっ!」

 陸の身体があっという間に圧し掛かり、麻衣は苦しさに呻き声を上げた。

(ごめんなさい、ごめんなさい……)

 陸の激情を身体に受けることも仕方ないことだと麻衣は目を閉じた。

 理由もきちんと告げられないような別れ話を切り出したのは自分、どんなに責められようが耐えるしかない。

 陸の手が乱暴に麻衣の服に手を掛かった。

 スカートをたくし上げられても麻衣は抵抗することもせず、ただジッと嵐が過ぎて行くのを待とうとした。

 服の下に入り込んだ手が力任せに胸を握り痛みが走っても麻衣は唇を噛んで声を堪えた。

「なんで……なんで……」

 呟く陸の声は苦しげな呻き声と共に聞こえなくなり、服の中の手はそのまま動かなくなった。

 再び訪れた静寂の中で、陸が鼻を啜る音が聞こえる。

「麻衣……なんで? 何で別れたいなの? 俺はずっと一緒にいたいって……ずっとずっと一緒にいられるって……」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「俺と一緒にいたい……って思ってくれないの?」

 固く閉じた瞼の上に温かい雫が落ちてくる。

 だからこそ目を開けることは出来ず、麻衣は奥歯を食いしばって声を絞り出した。

「一緒にいると辛い……の。陸と一緒にいると苦しくて堪らないの……」

「麻衣……何で苦しいの? ホストって理由じゃなきゃ何だよ! ……もしかして、俺が年下だから?」

(年の差だって乗り越えられると最初は思っていたけれど……)

 二十代になったばかりの陸はこれからもっと羽ばたいて行けるはず、本当なら私も一緒に羽ばたいて行きたいと思った。

 でも……私にはきっと翼をもいでしまうことしか出来ない。

 麻衣は閉じていた瞼を持ち上げて、自分を真っ直ぐ見下ろす涙で濡れた陸の瞳を覗き込み、ゆっくりと頷いた。

「最初は大丈夫だと思ったの。でも……私にはもう辛いだけなの」

 その言葉に陸は悔しそうに顔を歪めると、麻衣の上から身体を起こして拳をベッドに叩きつけた。


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