『番外編』
Another one9

 客商売らしく嫌味のない笑顔と声の柔らかさに感心していると、またもや女の子が元気な声でさっきの注文を繰り返す。

「なんか元気のない彼女を元気にさせたいらしいんで、そんな感じで作って欲しいです!」

(いや……俺はそこまで言ってねぇし……)

 だが間違ったことは言っておらず、奏太はあえて口出しすることはせず二人のやり取りを見守った。

「贈る相手の方の好きな花とか好きな色とかはありますか?」

「いや……何でも喜ぶと思うから、適当に作ってくれて構わない」

「分かりました、少々お待ち下さい」

 店長はもう一度笑みを浮かべ軽く会釈すると中へと入って行った。

 奏太が外から覗いていると店長が慣れた手付きでガラスケースの中から花を次々と取り出している。

(結構感じのいい花屋だなぁ)

「あっ、そのクリスマスツリー可愛いでしょっ!」

 若い店員が今度は足を止めた同い年くらいの女の子にさらに親しげな口調で話しかけているのを見て奏太は思わず口元を緩めた。

(確かに花屋にしては元気が良すぎるけど……入りにくい花屋よりは全然ましだな)

 そんなことを思いながら待っていたのはほんの数分で、店長がすぐに小さな花束を手に店先へと出て来た。

 手にしているのは店先に並んでいるものよりも少し大きめの花束で、ピンクやオレンジのガーベラが丸くまとめられている。

「きゃーーっ! 店長、すっごい可愛いっ!」

「こんな感じでいかがですか?」

「でも……これと少し違うような」

「お客様の元気になって欲しいという気持ちと、私からも元気になって笑ってくれたらという気持ちも込めて、簡単に言うとサービスです」

 そう言う店長は笑うとそれが素顔に近いのか少し幼い印象を感じた。

 ますます好感を抱きながら代金を払い、礼を言ってから麻衣のいる雑貨屋へと戻った。

 店の前に戻るとまだ麻衣は中にいるらしく、中をウロウロしている頭が見える。

(アイツ……どんな顔するかな)

 きっと最初は驚いて目を見開いて、それから大きな声を上げるだろう。

 驚かせてやろうと奏太は花束を背中に隠して麻衣が出てくるのを待った。

 少しすると買い物を済ませた麻衣が店から出て来て、真っ直ぐ奏太の元へとやって来た。

「ごめんね、お待たせー。クリスマスセールやってて、つい色々買っちゃったー」

 そう言う麻衣の手には大きな紙袋が下げられている。

「重そうだから持ってやるよ」

「いいって、これくらい持てるよー」

「いいから貸せって、その代わりお前はこれ持ってろ」

 奏太は無理矢理紙袋を取り上げると、後ろに隠していた花束を麻衣の胸元に突き付けた。

「へ?」

「掃除したんだから花くらい飾っとけ」

「うわぁぁぁぁっ! ありがとうーーー。すっごい可愛い! ねぇ、私がガーベラ好きだって知ってたの?」

「ま、まぁな……。つーかそろそろ帰るぞ!」

(サンキュ、花屋! 値段以上の効果があったぜ)

 まさか麻衣の好きだった花とは思わず、奏太は心の中で礼を言いながら駐車場へと向かった。

 隣に並ぶ麻衣は貰ったばかりの花束を見つめていたが、その眼差しは花ではなくどこか遠くを見ているような感じだった。


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