『番外編』
Another one8

「って……きっぱり振られちゃ意味ねぇっつーの」

 なかなか諦めの悪い自分に笑いながら、吸い終わったタバコを捨てると近くに見かけない花屋を見かけた。

「最近出来たのか?」

 新しそうな外装の花屋の店先には色とりどりの花が並び、季節柄かポインセチアの鉢植えや50cmほどのゴールドクレストに可愛らしい飾りを付けたクリスマスツリーが並んでいる。

 奏太はまだ麻衣が店から出て来ないことを確認して花屋へと向かった。

(仕事以外で花を買うのって初めてだよな)

 花束も小道具の一つと思っていたあの頃、花屋の前に立ち大きなバラの花束を頼むことを恥ずかしいと思う事はなかった。

 だが今は何となく気恥ずかしさを覚えながら、チラチラと店先に並ぶ鉢植えやグラスに入った小さなブーケを眺めた。

(花を見れば少しは元気になるかもしれないしな……)

 もちろんそれ以外の付加価値も期待する気持ちはあるものの、少しでも早く麻衣に元気になって欲しいというのが本心だ。

 花で完全回復するとは思えないけれど、元気を与えてやれたらと思い真剣に悩んでいると、中から黒いエプロンを付けた若い女性が出て来た。

「いらっしゃいませー。彼女にプレゼントですかー?」

 大学生らしき女の子の笑顔に釣られて、奏太は「えぇ、まぁ」とはにかみながら頷いた。

「こちらのグラスブーケとかはいかがですか? そんなに気合いも入ってないし、何気なく渡すにはオススメでーす」

 接客というには気さくすぎるが、元気の良さもあってか不快な気分にはならなかった。

 奏太は勧められた小さめのブーケを覗き込みながら品定めしていると、店員はさらに声を張り上げた。

「もし良かったら彼女のイメージとかで作ることも出来ますよー!」

 新しい店だからだろうか、そんなサービスもしているのかと感心しながらも、奏太はせっかくなら新しく作って貰おうと身体を起こした。

「それじゃあ……このグラスブーケっていうので……そうだな、見ていると元気になるような感じで作って貰える?」

「はいっ! 店長ーーーー! グラスブーケの注文でーーーす!」

 女の子は店の中に向かって大きな声を張り上げると、中から若い男の声が聞こえて来た。

「それじゃあ、居酒屋で生中の注文受けたみたいだよ」

 クスクスと笑いながら出て来た店長と呼ばれていたのは声の通り若い男、だが花屋の店長と呼ぶにはあまりにもイメージが掛け離れている。

 眼鏡を掛けているが整った目鼻立ち、頭にはバンダナを巻いているが脇に流れる髪はよく手入れが行き届いている。

「いらっしゃいませ。グラスブーケのご注文ですね」

 店長は出てくると店先に立っていた奏太に気さくな笑顔を向けた。


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