『番外編』
七夕伝説になれなかった二人6

 まさにこれぞ密月。

 所構わず二人の世界を作り出してしまう陸と麻衣にオーナーから出頭命令が出たのはそれから数日後のことだった。

 ホストクラブ『CLUB ONE』の一番奥にあるオーナールーム、黒い革張りのソファにゆったりと腰を下ろした竜之介は少し離れた場所に立つ二人に視線を投げかけた。

「で……二人とも呼び出された理由は分かっているか?」

「分かりません」

「り、陸!」

 オーナーである竜之介の前でも動じることのない陸の言葉に慌てたのは事の成り行きを見守るため立ち会っていた誠だった。

 陸の少し後ろに立ち呼び出された理由に心当たりのある麻衣も陸の返事に顔を引き攣らせている。

「クックックッ……、噂通りだな」

「何で呼び出したのか知らないですけど、用がないならいいっすか? 仕事じゃないのに麻衣との時間を邪魔されたくないんです」

 顔を青くする二人とは対照的に竜之介だけは楽しげに口元を緩めている。

 竜之介は数日前に掛かってきた情けない声の誠からの電話を思い出していた。

『陸が仕事をしなくて困っています。オーナーから一言言って貰えませんか?』

「ミイラ取りがミイラになったか? いや……むしろナンバーワンホストを落とした娘を褒めるべき、か……」

『オーナー!!』

「分かった、分かった」

 優秀な店長の懇願するような声を出されてしまい、自分にも原因があると自覚のある竜之介はすぐに頷いた。

 しばらく恋愛から遠ざかっていた娘をその気にさせたナンバーワンホストと初めて対峙した竜之介は久々に感じる高揚感にワクワクしていた。

 経営者として仕事に支障を来たすような従業員には厳しく接する必要があるにも関わらず、この場において不遜な態度を隠さず視線も逸らさず真っ直ぐ見返す生意気な瞳を気に入ってしまった。

「コ、コホンッ……オーナー?」

 動物的な危機察知能力からなのか、わざとらしい咳払いをする誠に竜之介は視線だけで「分かった」と応えた。

 竜之介は煙草に火を点けながら厳しい表情を浮かべ口を開いた。

「無断欠勤に早退遅刻……いくらナンバーワンとはいえ、さすがに目に余るものがある。それについて何か言うことはあるか?」

 経営者の顔で陸に尋ねる竜之介に娘である麻衣は顔を強張らせる。

 ここは演技でも良いから大人しく神妙な態度で謝罪をして、だが……麻衣の祈りが陸に届くことはなかった。

「麻衣が可愛すぎるからいけないんだと思います」

 さすがにこの言葉には竜之介も口をポカンと開けるしかなかった。

「だいたい麻衣を紹介したのはオーナー達じゃありませんか。悪いのは俺だけじゃないっす」

 この期に及んでこの台詞、竜之介の逆鱗に触れたのではないかと誠の顔は青ざめる。


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