『番外編』
七夕伝説になれなかった二人2
思わぬ告白に視線を逸らしていた店長達も誠へと視線を戻した。
(まだ口説き落としてねぇけど、絶対に口説くつもりだし、付き合ってるくらいハッタリ口にすれば良かった)
「へぇ、意外だな。あーいう気の強い女が好みか?」
「ええ、まぁ……」
「あの子はいい子だがなぁ。それこそ麻衣よりも難しいぜ、口説けるのかぁ?」
(チッ……何でもかんでもお見通しかよ)
意地の悪い笑みを投げかけられて思わず舌打ちをしそうになったがどうにか堪えた。
だが元来の負けず嫌いに火が点いた誠は顔を上げて口元に笑みを浮かべる。
「俺は『CLUB ONE』の店長ですよ。その俺が本気で口説いて落ちない女がいないわけないですよ」
(ってこれで口説き落とせなかったらすげぇカッコ悪いー)
弱気な部分は悟られないようにはしたが、果たしてそれが通用したかどうかは誠にはまったく自信がなかった。
やれるものならやってみろ、と言いたげな竜之介の視線がすべてを物語っているからだ。
「誠なら麻衣にちょうどいいと思ったんだが……好きな女がいるなら仕方ねぇなぁ。他には……っと」
竜之介の標的が誠から外れたことを知るなり他の店長はサッと顔色を変えて必死に視線を泳がせる。
ようやく解放されてホッとしていた誠だったが、会議自体が始まらないと話にならないと新たな策を提案した。
「うちのナンバーワンとかはどうですか?」
「今のナンバーワンって確か……陸、だったか?」
「ええ……もう半年ナンバーワンです。裏方から始めてボーイを経てホストに、下積み時代から人気もあったし奴のナンバーは今や不動です」
「みたいだな。でも……アレは麻衣にはちと若すぎるだろう」
難色を示した竜之介にすぐさま反応を示したのは誠ではなく他の店長達で、何とか説得しろという言葉のないプレッシャーを投げつけた。
(だから、何で俺なんだよ! ってお節介な性格が災いしてるってのは分かってんだ)
どこまでも貧乏くじを引いている自覚のある誠は腹を括って竜之介の説得に掛かった。
「歳の差は……八つですが、それくらい今は何でもないですよ。それに麻衣さんの実年齢を当てられる人なんて会ったことないですし、陸と並んだって誰も違和感なんて感じないですよ」
「でもなぁ……」
もう一声! そんな周りの心の声を聞いた誠は頭をフル回転させた。
「それに……面倒見の良い麻衣さんには年上や同年代の男よりも年下の方が合っていると思います。陸も年上のお客様に可愛がられている面もあるし、きっと二人は上手くいくと思います!」
「ふうん」
(しまった! さすがにこれはやりすぎだったか!?)
過剰な演出は逆効果だと気付いたが時既に遅し、あとは竜之介の心一つで誠の采配の結果が出る。
少しの間考え込んでいた竜之介は結論が出たのか顔を上げると誠に向かってこう言った。
「近いうちに陸の都合つけておけ。二人を一度会わせてみる」
この言葉に全員から安堵のため息が漏れたのは言うまでもない。
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