『番外編』
七夕伝説になれなかった二人1

 ある町に麻衣という年齢の割には可愛らしい娘がおりました。

 飲食店を経営する父の手伝いをしてそれはもう町一番の働き者で器量も良い娘ですが、父の竜之介は麻衣の話になると浮かない顔をしてこんな事を言いました。

「いくら器量が良くて働き者でもなぁ。なんで嫁の貰い手がねぇんだ? この前の『お嫁さんにしたい娘』で一位ってのはアレは何だったんだ?」

 娘と呼ぶにはそろそろ年齢的には無理もあり、本格的な婿探しをするべきだろうと竜之介は考えていた。

「高嶺の花ってことですよ。どうせ相手にされないって最初から諦めているんです。そうじゃなきゃ麻衣さんのように可愛らしい人が『いきおくれ』なんて……」

「おい、誠。そこまで言うならお前が貰ってやってくれねぇか? 俺もお前なら構やしねぇさ」

 つい調子に乗って口を滑らした誠は竜之介から目を付けられてしまったことに嫌な汗が背中を伝っていくのを感じた。

「あ、いや……俺は……」

「なんだ? 『いきおくれ』の娘はやっぱり嫌か? もっと若ぇ女の方がいいのか?」

「あ……いや、そうじゃなくて……」

「ハッキリしねぇな。言いたいことがあるなら言えよ」

 竜之介の経営する飲食店の一つ、ホストクラブ『CLUB ONE』を任されている雇われ店長の誠はビクッと肩を揺らした。

 仕事でも人柄でもとても尊敬出来る竜之介に誠は憧れを抱いていた。

 店を任せると言われた時には心からの忠誠を誓ったほどだ。

 この場にいる他の者も似たようなもので、オーナーである竜之介を慕っている。

 月に一度の各店の店長が顔を合わせる店長会議の場は妙な話の流れにざわつき始めた。

(つーか、何で俺? くそっ……つい口を滑らしたとはいえ俺の馬鹿野郎が)

 各店長も当然のことながら経理全般を把握している娘の麻衣のことはよく知っている、仕事も出来て気配りも出来る上に見た目も良いのだから一度は惹かれるのだが……。

(竜さんの娘、ってのがなぁ……)

 いくら尊敬するオーナーとはいえ、義理の親子となると話は別だ。

「おい、誠。聞いてんのか」

「あーえっと、ですねぇ」

 しどろもどろの誠はさりげなく周りを窺ったが、誰もが視線を合わせないように素知らぬ顔をしている。

(なんだよ、俺を生贄にするつもりか!?)

 店長会議で娘の話題に触れるのはいつものことで、今日も軽く触れる程度だと思っていたのが大きな間違いだった。

 竜之介は麻衣の結婚相手について真剣に頭を悩ませているらしい。

 このままでは自分は義理の息子に、確かに可愛いとは思うけれど正直好みではない麻衣を嫁にしなくてはいけない、焦った誠は覚悟を決めて口を開いた。

「申し訳ありません、オーナー」

「ああ?」

「実は……今まで黙っていたのですが、俺にはずっと想ってる相手がいまして……」

「おいおい。逃げるには陳腐な理由だなぁ、誠?」

「いや……言い訳ではなくて。実はその……その相手ってのは麻衣さんの親友の……美咲、さんで、そういうわけで俺はオーナーの気持ちに応えることは……」

 ずっと隠し続けていた美咲への気持ちをカミングアウトすると竜之介は面白そうに眉を上げた。


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