『番外編』
星に願いを6

 自分自身を優等生だと思っているわけではないけれど、こんな時間に出歩く事には抵抗があるし、両親になんて言い訳をしていいのかも分からない。

 悪い事をしているという自覚はあっても自分を止められなかった。

 去っていく雅樹の後ろ姿を黙って見送ることも出来ず、ベッドから飛び降りると手近にあった服を慌てて着込んだ。

 出来れば見つからないようにと心の中で祈りながら静かな家を出る。

 たとえ今見つからなくてもきっと後でバレてしまうことは分かっていた。

(お母さん、お父さん……ごめんなさい)

 玄関を出る時に少しだけ迷って足を止めたけれど、雅樹の姿ばかりが頭にちらついてすぐに駆け出した。

 雅樹が歩いて行った方向へと姿を探しながら走る。

 雨上がりの深夜、気持ち悪いほど静かな住宅街は怖くて仕方ない。

 早く雅樹を見つけたいと走る足は自然と速くなり、忙しなく視線を動かして雅樹の姿を探した。

(もう帰っちゃったのかな……)

 決して気が長いとはいえない雅樹だからこそ、すでに帰ってしまった可能性が高い。

 もしかしたら無駄足だったかもしれないと諦めかける真子の瞳はようやく雅樹の姿を見つけることが出来た。

 10台程が停められる小さな駐車場にバイクを停め、寄りかかって立っている雅樹はつまらなそうに煙草を吸っている。

「ま、さき……っ」

 側まで駆け寄って息つく暇なく乱れた呼吸のまま名前を呼ぶと雅樹は吸っていた煙草を放り投げた。

「おっせーよ」

 まるで来ることを分かっていたような台詞を口にしてニヤリと笑う。

「だ、だって……」

「行くぞ」

 怒ってない事にホッとする間もなくバイクに跨った雅樹に乗るように急かされる。

「行くってどこへ??」

「行けば分かる。さっさと乗れ」

 こういう時の雅樹はこれ以上言っても仕方ないと短い付き合いの中で一番初めに知ったこと。

 雅樹の中にはきっと思い描く何かがあって、わざわざ深夜に訪れたのもそれを実現させるために必要なことなのかもしれない。

 いつだって言葉は少ない、一緒にいて不安に思うことは多いけれど、雅樹の強い瞳は言葉以上の安心感をくれる。

(いいものって何かな?)

 バイク以外に興味の無い雅樹の「いいもの」をあれこれと想像すると楽しくなる。

 自分とは正反対の雅樹はいつだって驚きをくれて新しい世界への入り口を教えてくれた。

 両親がそのことを快く思ってないことは分かっていても、冷静になれば両親の言ってることを理解出来ても、雅樹を好きな気持ちは止められない。

「掴まってろよ。少し飛ばすぞ」

 身体に伝わってくる振動にも慣れた真子がしっかりと雅樹の腰に手を回すとバイクは大きな音を立てて走り出した。


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