『番外編』
星に願いを7
バイクは静かな住宅街を通り抜け、車通りの少ない大通りもあっという間に駆け抜ける。
湿気を多く含んだ空気はさっきと変わりないけれど、風を切って走ることで不快感は微塵も感じさせなかった。
しがみついていた真子は遠くなる町の明かりをソッと振り返った。
(どこ行くんだろう?)
バイクが向かう先には暗闇にそびえ立つ山しかなく、ぽつんぽつんと立つ街灯だけが頼りなく見えるだけだ。
雅樹が一緒なら怖くない、そう思っていてもしがみつく手に自然と力が入ってしまう。
「寒くねぇか?」
スピードは緩めず点滅する信号を一気に駆け抜ける途中で雅樹の声が耳に届いた。
「大丈夫!」
エンジン音に負けないように大きな声で返すと、しがみつく真子の手に雅樹の大きな手が一瞬だけ重なるように触れる。
そんなさりげない優しさが嬉しくて熱い背中に頬を寄せると、バイクは一段と大きな唸りを上げて山道を登り始めた。
走り始めてようやく止まった場所は山の中腹ほどにある小さな展望台。
こんな場所にこんなものがあること自体知らなくて驚いたけれど、もっと驚いたのはそこから見下ろす町の綺麗さだった。
都会のように煌びやかなネオンが瞬いているわけではないけれど、住宅街の小さな明かりは温かみを感じさせた。
「きれい……」
手すりに手を付いて身を乗り出すように眺めていた真子は後ろから髪の毛をグンと引っ張られた。
「痛いよー雅樹」
「どこ見てんだよ。そっちじゃねぇよ」
引っ張られた髪を直していると雅樹は隣に並び手すりに腰掛けると上を見上げた。
(そっちじゃないってどっち向いて?)
そっちは山しかないはずなのに何があるのだろうと同じように手すりに腰を下ろして雅樹の真似をして上を見上げる。
「あ……」
「何とか見えるな」
薄く切れた雲の隙間から見えるのは小さく瞬く星。
雲が流れると見え隠れするけれど、よく見れば他にも小さな星をいくつか見つけることが出来た。
「見せたかったのって……」
「なんだよ、嬉しくねぇのかよ」
「う、ううん。そうじゃなくて……」
(何で星なの?なんて聞いたら怒りそうだけど……雅樹にしてはなんかすごく意外っていうか)
雅樹の意図が分からないことへの動揺は隠し切れずにいる真子は小さな舌打ちをする雅樹を慌てて仰ぎ見た。
「テツの奴いい加減なこと言いやがって。星見せたら喜ぶなんて嘘じゃねぇか……クソッ」
「ま、雅樹……? どういうこと?」
どうやらテツくんが立案者らしいことに何となく納得出来た真子はここへ連れて来てくれた理由を尋ねた。
「別に」
「雅樹? 教えてよ」
「…………」
話したがらない雅樹と聞き出したい真子の我慢比べを制したのは真子だった。
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