『番外編』
星に願いを5

 梅雨だから仕方ないとはいえ連日の雨に湿気を含んだ空気は重く、不快感ばかりを助長さえその日も真子は寝苦しさに浅い眠りを繰り返していた。

(部屋にクーラー欲しいよー)

 部屋に置かれた扇風機は生温かい空気をかき回すだけでちっとも涼しくない。

 おまけに外は霧雨が降り続いていて昼間から閉めっぱなし、入れ替えてない空気はますます淀んでいるような気がする。

 じんわりと汗をかく首筋にまとわりつく髪の毛を払いながら枕元の時計で時刻を確認すればまだ午前1時すぎ。

 朝まで時間はあるもののこのまま眠れないと確実に授業中に寝てしまう。

(早く寝なくちゃ!)

 今度こそ朝まで眠りたいと寝返りを打つとコツンと窓に何かが当たるような音がした。

 きっと風でも出て雨が当たったのだろうと気にもせず目を閉じると、今度は続けて二回同じような音がした。

 さすがに雨の当たる音とは違うことに気付いた真子はゆっくりと身体を起こしカーテンの向こう側を窺うように耳を済ませた。

 コツン、今度はハッキリと聞こえた。

(な、なに……?)

 怖いと思いながらも好奇心には逆らえずカーテンをそっと開けて外を窺った。

 いつの間に止んだ雨のおかげで夜でも視界はそれほど悪くない、窓から見える家の前の細い道にいる人物を見つけるのにもさほど時間は掛からなかった。

「雅樹!?」

 今にも切れそうな街灯の下に立つ雅樹の姿を見つけて慌てて窓を開けた。

 家の方を見上げていた雅樹もすぐに気が付いて窓から顔を出した真子に手を上げて合図した。

「どうしたの?」

 深夜だからと小声で雅樹に呼びかけたけれどちゃんと声は届いたらしい。

 街灯の下から少し家の方に近付いた雅樹は手に持っている小石か何かをパラパラと落としながら口を開いた。

「出て来いよ、真子」

「……え?」

「いいもん見せてやる」

 楽しそうな顔を見せる雅樹に真子は困ったように眉を寄せた。

 時間が時間だけに簡単に出掛けられるわけもない。

「真子、早くしろよ」

「で、でも……夜遅いし……」

 困惑を口にしただけなのだが、雅樹はそれを拒否と受け取ったのか、途端に不機嫌そうに顔を歪めた。

 つまらなそうな物でも見るような視線を真子に向ける。

「嫌ならいい、じゃあな」

 突き放すような言葉を投げかけるとすぐに踵を返し歩き出してしまった。

(だ、だって……)

 普通に考えたら遊びに行くような時間じゃない。

 いくら大好きな雅樹の誘いだからといっても簡単に行くと返事が出来るほど真子は遊び慣れているわけではなかった。

(雅樹に嫌われたくない)

 遠ざかっていく後ろ姿に不安ばかりが募る。


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