『番外編』
星に願いを4

 公園での散策を終え次に向かった先は真子の実家。

 五日前にも顔を見せに行ったのにも関わらず真子の両親は手放しで喜んだ。

 すっかり孫に心を奪われ娘夫婦のことなど眼中になく、小一時間ほどのんびりと過ごした所で雅樹がおもむろに声を掛けた。

「じゃあ、そろそろ行くか」

「えー? ようやく寝たのに今動かすと起きちゃうよ?」

「寝かせておけばいい。それでは……八時、九時頃までには戻ってきますから」

「はい、いってらっしゃい」

 最後の言葉は真子の母親に向けられたらしく、真子の母はニッコリ笑って返した。

 真子一人だけが一体どういうことなのか理解出来ず、両親と雅樹の顔を見比べて視線で説明を求めた。

「たまには二人でのんびりして来なさい」

 父の言葉に首を傾げると今度は母が急き立てるように真子の背中を押した。

「そうそう。ひーくんもはーちゃんもお利口さんだから安心して行ってらっしゃい」

「お母さん……?」

「お義母さん達も快く引き受けてくれたんだ。モタモタしてたら時間なくなるし行くぞ」

「あ……」

 状況をやっとのことで呑み込んだのも束の間、両親に一礼をした雅樹は真子の手を引いて歩き出した。

(どうしよう、すごく嬉しい)

 いつになく強く手を握られ玄関へ向かう途中、ちゃんと両親にお礼を言えば良かったとか、出掛けると分かっていたらもっと可愛い格好をすれば良かったとか、色んなことが頭を過ぎった。

「……雅樹」

 黙ったまま玄関で靴を履く雅樹の後ろ姿に小さく声を掛けても雅樹は振り向かない。

 ポケットから取り出した鍵を手にさっさと出て行こうとする後ろ姿にさらに声を掛けた。

「ありがとう」

「……いーから、早くしろよ」

 ぶっきらぼうな声に促されて急いで玄関を出た真子は突然足を止めた。

 来る時には子供達ばかりに気を取られていたのか、隣の家の玄関先に大きな笹が揺れていることに気が付いた。

(そういえば……今日って七夕?)

 カレンダーの日付を思い出して今日が何の日かようやく思い出す。

 笹と揺れる色とりどりの飾りと短冊、子供の頃は毎年のように短冊を書くことが楽しかったのに、大人になってからは縁遠くなってしまった。

「ねぇねぇ、雅樹! 今日七夕だよ!」

 車に乗り込もうとしていた雅樹を呼び止めて声を掛ける。

「七夕に二人でデートなんて、すごい偶然じゃない?」

 ロマンチックだと笑いながら助手席に乗り込もうとした真子は、乗り込もうとしたまま動かない雅樹に睨まれていることに気が付いた。

「…………な、なに?」

 不機嫌この上ない視線に思わず声が上擦る。

(え……私そんなに怒らせるようなこと言った?)

 まさか『七夕』くらいで怒るとも思えない、乙女的な発言をしてもいつだって聞き流すのだからこのくらいで動じるはずもない。

 どうしてもその理由が分からずしきりに首を捻る真子に雅樹はボソリと呟いた。

「お前はそういう奴だよな」

「そういう奴ってどういう意味よ!」

 意味は分からなくても呆れているのは伝わってつい声が大きくなる。

(そんな言い方するくらいなら理由を教えてくれたっていいのに)

「覚えてないならいい。ほらシートベルトしろ、行くぞ」

 エンジンを掛ける雅樹の不機嫌は直りそうにもない。

 せっかく久しぶりに二人きりで出掛けるのにこのままでは楽しめそうにもない。

 この空気のまま出掛けるくらいならいっそ出掛けない方がいいかもしれない。

 シートベルトを締めようとしていた手を止めた真子を雅樹が苛立った声が促す。

(でも……覚えてないならって言ったよね?)

 記憶の引き出しを探るキーワードは『七夕』、二人で過ごした『七夕』を思い出すまでにさほど時間は掛からなかった。


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