『番外編』
星に願いを3

 雅樹の言葉通り普段の買い物の時よりは少しだけお洒落をした真子、その横を歩くのは双子用のベビーカーを押す雅樹。

 朝の青空も今は薄い雲が張り出してしまったが、雨の心配もないし陽射しも弱まり外を歩くには文句なしの天候になっている。

 家族で向かった先は車で15分ほどの場所にある大きな公園。

 季節ごとに綺麗な花を咲かせる公園の遊歩道をゆっくり歩く。

「綺麗だね」

「そうだな」

 言葉少なに会話をしながら満開の時期を少し過ぎたアジサイの横を通り過ぎる。

 子供が生まれてからは毎日毎日が慌しく一日があっという間に過ぎていく、それでも嫌だと思ったことは一度もない真子はそれが雅樹のおかげだとよく分かっていた。

 毎日が発見と喜びの連続、同じくらい大変さも悩みもあるけれど、雅樹が夕飯を食べる時や寝る前の短い時間のとりとめのない話にちゃんと耳を傾けてくれる。

 普段から口数も少ないし気の利いたことを言うような人じゃないけれど、疲れていても邪険にせず相槌を返してくれ、時には「お疲れさん」と労いの言葉もあった。

(何だかんだいって雅樹って優しいのよね)

 今も表情だけを見れば不機嫌そうな無表情、でもミルクやオムツの入った大きなバッグを肩から提げ、時々ベビーカーで眠る子供たちに視線を下ろしガーゼのひざ掛けを直す姿は真子の心を温かくさせる。

(二ヶ月前が嘘みたい……)

 出産後は実家で一ヶ月過ごし、家族水入らずの生活が始まった頃、寝るか泣くかの子供を前に戸惑うだけだった雅樹。

 抱っこする時も傍から見ていて心配になるほど危なっかしく、つい口を挟んでしまうこともあった。

 すっかり父親の顔になった雅樹の横顔を見つめていると視線に気付いたのか雅樹が振り返った。

「どうした」

「ううん、なんでもない」

 結婚したのに子供も生まれたのに今でも雅樹に恋心を抱く自分がいる。

 知り合ったのは高校生の頃だけど会えなかった時間の長さが雅樹に対する気持ちをあの頃と同じにしているのかもしれない。

(あの頃よりもカッコ良くなってるのは惚れた欲目じゃないとは思う)

 自分を着飾る事に無頓着なことに変わりはないけれど、機能性を重視したシンプルな装いは雅樹の魅力を引き出している。

「ニヤニヤして、気持ち悪いぞ真子」

「気持ち悪いって失礼ね!」

「むくれんなよ。丸い顔が余計に丸……」

「まーさーきーっ!!」

 一番気にしていることを言われ真子がキッと睨みつけると雅樹はたいして反省する様子も見せず「悪い、悪い」と謝罪の言葉を口にする。

 そんな雅樹の態度は余計に気持ちを逆撫でしたけれど真子は怒ることはしない。

 楽しげな横顔はまるで高校生の頃に戻ったように無邪気で明るい。

 知らないうちに大人になっていた雅樹、一緒にいるようになって慣れはしたけれど、少年から大人へと変わる過程を知らないだけに、時々ほんの少しの違和感を覚えることもあった。

(雅樹は雅樹なんだけどな)

「おい真子っ! さっさと来い、置いて行くぞー」

 考え事をしながらボンヤリ歩いていた真子はいつの間にか先を歩いていた雅樹を追いかけた。


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