『番外編』
星に願いを2
やるべき用事を済ませて真子が昼食の後片付けをしていると、キッチンとベランダを繋ぐ勝手口で煙草を吸っていた雅樹がおもむろに口を開いた。
「せっかく休みだし、出掛けるか」
思ってもみなかった雅樹の言葉に真子は思わず水を止めて聞き返した。
「だから……雨も降ってねぇし、出掛けるか?って」
一体どういう風の吹き回しかと思ってしまうのは、休みなんだから家にいると普段から口癖のように言っているのを知っているからだった。
真子は怪訝な顔をして雅樹を見た。
「どうしたの?」
「なにが」
「だって……急にそんなこと言うから」
「はあ?」
「もしかしてやましいことでもある、とか?」
「はあああああ?」
つい本音を口にしてしまった真子に雅樹は目を剥き、煙草を手にしたままキッチンへと入って来ようとする。
真子の視線に制されてどうにか踏みとどまったものの、雅樹は不満そうな視線を向けて口を開いた。
「嫌ならいい」
「嫌なんて言ってないでしょー。ただ……そんなこと言うなんて浮気でもしてるかなぁとか……」
「バカか、お前はっ!!」
本気の怒鳴り声に不謹慎にも嬉しいと思ってしまった真子は洗い物を再開させると小さな声で「嬉しいな」と呟いた。
「ここんとこ雨ばっかだったし、お前も一人じゃあいつら二人連れて外出るのはしんどいだろ」
普段素っ気無いからこそ気遣う言葉が嬉しいと感じる。
すっかりその気の真子の様子に満足気の雅樹は煙草を吸い終えると中へと戻ってきた。
鼻歌でも出てきそうなほどご機嫌な真子の後ろを通り過ぎながら雅樹はまた何か裏があるのではないかと疑いたくなるようなことを呟いた。
「久しぶりだし、粧し込めよ」
「な、何言ってるの!?」
驚いたものの手は止めず、真子は視線だけを上げた。
それには何も答えず雅樹は横顔で笑うとひらりと手を振って歩いていった。
「いつもと違うとほんと……調子が狂っちゃうんだから……」
ブツブツ言いながらも隠し切れない喜びが手の動きを一層早くさせた。
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