『番外編』
星に願いを1
梅雨空に束の間の青空、待っていたかのように朝から鳥たちが空を飛びまわり、喜びの歌をさえずっている。
久しぶりの太陽にまとわりつく暑さも物ともせず、新米母の真子はすべての洗濯物を干し終えるとようやく一息ついた。
「あとは……掃除機かけて、買い物に行って、あっその前にシャンプーとかの在庫の確認して、それから……」
指を折りながら今日やることを確認していた真子はリビングから聞こえてきた合唱にやれやれと肩をすくめながら振り返った。
赤ちゃんは泣くのが仕事、そんな言葉があるのは知っていても二人同時の泣き声にはさすがに閉口してしまうこともある。
マンションの防音は一年ほど暮らしている間にほぼ完璧だと分かっていても、この声量にはさすがに近所迷惑ではないかと心配になった。
(角部屋だし、夜じゃないし……大丈夫よね?)
久々に開け放った窓から泣き声は外へも聞こえているだろうが、隣や上下階の住人の顔を思い浮かべながら心の中で謝ることは忘れない。
「おい、真子!」
空の洗濯カゴを抱えたまま立っていた真子は飛んできた鋭い声にハッとした。
「そんなとこ突っ立てないで手伝えよ!」
床に敷いた子供用の布団には可愛い我が子達が顔を真っ赤にさせて泣いている、その前でオムツを持ってオロオロしているのが新米父の雅樹。
双子だからなのか、生活習慣が同じだからなのか、同じタイミングで泣き出す双子。
途方にくれたように二人に視線を行ったり来たりさせているだけの雅樹に思わず笑ってしまう。
「もう……私はいつも一人でやってるんですけど?」
「しょうがねぇだろ。たまにしかやんねぇんだし……」
側まで来た真子がクスクス笑っていると、困り果てる雅樹が言い訳を口にした途端、二人の泣き声がさらに大きくなった。
「分かった、分かったよ! 今替えてやるから待ってろ」
雅樹がいかにも彼らしい言葉で我が子をあやしオムツを替え始めると、真子も傍らに腰を下ろし手際良く手を動かした。
待たされることなく二人同時に替えてもらったからなのか、ご機嫌な顔をして「あーあー」と二人が声を上げる。
「ったく……十日ぶりの休みだってのに。聖(ひじり)、遥(はるか)、お前らの父ちゃんは家族の為に一生懸命働いてんだって母ちゃんに言ってやれよ」
手に持ったぬいぐるみをかざしながらも、口調はやっぱり子供に話しかけるソレとは少し違う。
それでも二人を見つめる雅樹の瞳は柔らかくとても慈愛に満ちていて真子は嬉しそうに微笑んだ。
「それを言うならママだって毎日頑張ってるんですよー。ひーくんもはーちゃんも一生懸命大きくなってるものねー?」
音の鳴るガラガラを手にして二人の視線を攫ったからなのか、それとも別の理由からなのか、雅樹は物言いたげな視線を真子に向けた。
ジトとした視線に真子も手を止めて雅樹に視線を返す。
「分かってるよ。仕事が忙しいってのは言い訳にならねぇけど、こいつらの事お前に任せっきりだし。でも……」
「私だって分かってるよ。雅樹が頑張ってくれてるから、私は安心して家にいられるんだもの」
普段は口に出来ない感謝の思いを込めた。
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