『番外編』
Happiness【3】
「お……はようございます」
真子の方を見た後、傍らに立つ真子の両親に挨拶をして中へと促した。
「いいえ、すぐに帰るわ。この子送って来ただけだから」
「どういう……」
「朝から騒がせてすまんな。真子、ちゃんと雅樹君に話しなさい、いいね」
何がなんだか分からず聞こうと思っても真子の両親は足早に帰っていく、玄関先に残された俺達は気まずい空気をまとったまま動けずにいた。
(何がどうなってる……)
朝から色んなことが起こり過ぎて何から考えていいのかも分らない。
だからといっていつまでもこうしているわけにもいかず、俺は片手で玄関のドアを押さえると体を横にずらして真子に声を掛けた。
「とりあえず、中入れよ」
「…………」
「入れって」
動こうとしない真子に語気を強めてもう一度促すと今度は素直に従った。
真子は怒っているのか落ち込んでいるのか、はっきり読み取れない表情のまま黙って部屋へ入るとリビングのソファに腰を下ろした。
俺はどこに座ろうかと迷ったがこんな雰囲気では隣りに座るのは気が引けて一人用のソファに腰を下ろした。
「まだ、昨夜のこと怒ってんのか?」
そう言ったきりまた二人を重苦しい沈黙が包み込んだ。
(ったく……)
ダンマリを決め込んだのか真子は膝の上で手を重ね視線を落としたまま口を開くどころか微動だにしない。
強い口調で責め立てても仕方がない、ここは長期戦と諦めることにしてテーブルの上のタバコに手を伸ばした。
「……あっ」
タバコを取り出そうとするとずっと黙っていた真子が小さな声を上げた。
顔を上げたが真子は居心地悪そうに視線を彷徨わせるとまた足元へと視線を戻してしまう。
(訳分かんねぇな)
徐々にイライラして来るのを何とか抑えこみ、タバコを咥えながらライターに手を伸ばした。
「まっ……」
(またかよ)
ひと言発した真子はまた口を噤んでしまった。
いい加減にしてくれよ、とタバコのフィルターを噛みながら手の中のライターを弄ぶ。
「言いたいことあるなら言えよ」
なるべく冷たい言い方にならないようにと気を配ってはみたものの口から発した声を聞けば少しも表れてないことは明白だった。
付き合い始めた頃は少し声を荒げただけで泣き出しそうになっていた、さすがに今はそんなことはなくなったが身体をビクつかせた真子を見て心の中で舌打ちした。
(ビビらせてどうすんだ)
何とか気持ちを落ち着けようとタバコに火を付けるとまた真子が声を上げた。
「タ、タバコ……は……」
「あ?」
今度は一言ではなくちゃんとした言葉になったがその意味が分からず眉間に皺を寄せてしまった。
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