『番外編』
Happiness【2】

 ―翌朝―

「真子……?」

 目覚めるとベッドは空っぽで時計を見ればすでに十時を過ぎていた、リビングにでもいるだろうと思っていた真子の姿はどこにもなくただ小さな紙切れが一枚。

 【実家に行って来ます】

(ちょっと……待て……)

 ガランとしたリビングのテーブルの上に小さな紙、そしてそこに書いてある文字に胸騒ぎを覚えた。

(まさか、な?)

 昨日たまたま遅く帰って来ただけで実家に帰るなんてことはないだろう、紙にも「実家に行って来ます」と書いてあるのだから心配ない。

 自分にそう言い聞かせても胸騒ぎはジワジワと全身へと広がっていく。

「まぁ……待ってたら昼には帰って来るだろう」

 そんなセリフが何の慰めにもならないことは分かっていた。

 言葉にした後も気になって時計ばかりを見てしまう、待っていられないならいっそのこと迎えに行けばいいだろうと思うのだけれど……。

 男のプライドというものは時として非常に邪魔なもの。

(今はそんなこと言ってる場合じゃないか)

 ようやく重い腰を上げると同時に携帯が鳴った。

 真子からかと急いで携帯を手に伸ばしたが表示された自分の父親の名前にガックリとうな垂れる。

(こんな時になんだよ……)

 間の悪さに舌打ちしながら電話に出れば、不機嫌な俺のことなどお構いなしに親父は能天気な声を出した。

「調子はどうだ?」

「調子って……毎日会社で顔見てんだろ。親父……ついにボケたか?」

「お前の心配なんぞしても面白くもない。真子さんの調子はどうだ?」

(真子……?)

 確かに真子と両親が実の親子のように仲が良い、けれどワザワザ自分に電話をして聞く理由が分からなかった。

「どういう……」

 ――ピーンポーン

 ちょうどチャイムと重なった言葉を飲み込んだ。

「真子なら実家にいる。誰か来たみたいだから切るぜ」

「おぉ、そうか。くれぐれも体に気を付けるように伝えてくれ」

「分かった分かった」

(ったく……何だって言うんだ)

 電話の声がやけに上機嫌なことだけが気になったが早々に電話を切りそのまま真っ直ぐ玄関へと向かった。

 玄関を開けて思わず言葉を失った。

 ドアの向こうには気まずそうに顔をそむける真子と真子の両親が立っていた。

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