『番外編』
恋のキューピッド【2】

 階段を下りて行くと足元に落ちていた小さなキーホルダーが目に止まった。

 ブタ?

 拾い上げたのはブサイクなブタのキーホルダーだった。

 もしかしたらこれもさっきの真子って奴のじゃ……そう思った俺は意識する間もなく足を止めてしまった。

 自分がどうしたいのか分らなくて、こんなことをする理由が分らなくて、すげぇイライラする。

 そんなにイライラするのなら今すぐこんなキーホルーダーなんか捨てて帰ればいいだろうと思うのに、何故だかそうすることが出来ず真子を待っていた。

「確かにちょーっとポチャっとしてるかもしれないけど、あなたにぶ、ぶたって言われる覚えはないんですけどっ!!」

 俺は驚きのあまり声が出なかった。

 ただこのブタはお前のかと聞いたつもりだったのに、どうやら真子は自分がブタだと言われた思ったらしく顔を真っ赤にして怒っている。

 なんだ……コイツ。

 俺はもうこの時に真子から目が離せなくなっていた。

 男子でもビビって俺と口を聞こうとしないのに、真子は真正面から俺を見据えてこんな風に言葉をぶつけてくる。

 あまりに新鮮な反応にどう対応していいか困るくらいだ。

「これ……ぶただろ?」

 チリンと音の鳴るキーホルダーを前に差し出すと真子はハッとしたように自分の鞄に視線を下ろす。

 再び顔を上げた時には微妙な顔をしていた。

「何、ぶたじゃねぇの?」

 もしかしたらブタだと思っていただけで実は違う物かと思ってもう一度キーホルダーのブタをマジマジと眺めた。

 やっぱりブタにしか見えない。

「ぶ、ぶた……ですね」

「おまえの?」

「は、はい……私のぶたです」

「ん……」

 間抜けな会話をしているなと思ったけれど不思議と嫌だとは思わない。

 広げられた小さなの手の平にキーホルダーを乗せてやると真子は小さな声で「ありがとう」と言った。

 また礼を言われた。

 そんなこと言われ慣れていないだけになんだかくすぐったくて仕方がない。

 すっかり調子を狂わされた俺は階段を下り始めた足を止めて自分でも信じられないことを口走っていた。

「おまえは……ぶたじゃねぇと思うよ」

 普通に可愛いと思うし……その言葉は胸の中で続けた。

 ガラにもないことをする自分にイラついていたはずなのに、なぜか俺は学校を出ても真っ直ぐ帰ろうとはせず興味もないカラオケボックスに向かっている。

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