『番外編』
恋のキューピッド【1】

 アイツと初めて出逢った頃の俺は「うるせぇ」「くだらねぇ」「めんどくせぇ」が口癖だった。

 学校なんていつやめたって構わなかったし、毎日行くのだって「めんどくせぇ」と思っていた。

 そんな俺がなぜか一日学校にいたあの日、アイツは俺の前に現れた。


「雅樹、帰んじゃねぇぞー」

「はいはい」

 教室を出て帰ろうとしていた俺は隣りの教室から呼び止めてきたテツに振り返りもせず返事をした。

 カラオケなんかくだらねぇ。

 テツには行くと返事はしたけれどめんどくせぇしこのまま帰るつもりだ。

「きゃっ!!」

 いきなり後ろから強い衝撃を受けて転びそうになった俺は辛うじて踏みとどまったが、また誰かにケンカを売られたのかと振り返った。

「真子〜? まだぁ?」

「ごめーん! 先行っててー」

 なんだ……コイツ。

 足元には廊下に這いつくばっている女子、周りに散らばっている鞄の中身を見て今ぶつかったのはソイツだとすぐに分かった。

 散らばっている物を拾っている手が止まって俺を見上げたソイツは俺を見るなり驚いてそれから怯えたような顔をした。

 いつもと同じ反応だ。

 今さら何とも思わないし誰にどう思われようと構わない。

 めんどくせぇことになる前に無視して行こうと思ったらソイツは何を思ったのかいきなり立ち上がって俺に謝って来た。

 丸っこい顔の大きな目はビビってるくせに俺のことを真っ直ぐ見上げている。

 普通なら周りにいる奴みたいに関わり合いたくないからと目も合わせずにそそくさと逃げていく、それなのにコイツはビビりながら俺のことをジッと見つめて来た。

「お前……なんて名前?」

「あ、あのぉ……す、すみませんでした……」

「名前、聞いてんだけど?」

 そんなことを言った自分に驚いた。

 今まで誰かに興味を持つことなんてなかったのに、なぜかコイツのことが気になってしまった自分に戸惑っている。

 謝るばかりで答えないコイツにイラッとしているところにちょうどテツが通りかかった。

 テツは当たり前のようにコイツのことを「真子ちゃん」と呼んだ、どうやら同じクラスの女子だったらしい。

 それからまたカラオケに来るように念を押すと階段を駆け下りて行った。

 そういえば……さっきコイツもツレに先に行ってとか言ってたよな……。

 俺はまだ直立不動のままのコイツを無視して行こうと思ったけれど、廊下に散らばったままのノートが気になってその場から動けなかった。

 なにやってんだ……俺。

 めんどくせぇことやってんなぁと思いながら拾ったものを鞄に突っこんでやると驚いたことに真子は俺に向かって礼を言って来た。

 変な女、第一印象はそれ以外なかった。

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