ツイてる乙女と極悪ヒーロー【41】


 御嵩くんの説明を聞いていくうちに、ようやくバラバラだったパズルのピースがはまっていく。

 話を聞き終わって、聞かされた真実が自分の考えとズレていないことで、あまりショックは受けなかった。
 これ以上、新事実を聞かされたら、また倒れる自信があっただけに、少しだけホッとしてしまう。

「被害にあった女子生徒の話を信用していないわけじゃなかったけれど、学校側としては公にしたくなかったと同時に、確実な証拠を押さえたいと考えていました」

「あの……そういうのも、生徒会の仕事とか、なんですか?」

 口を挟んでしまった。
 聞いてはいけないことだったのか、御嵩くんは少し困った素振りを見せる。
 少し考えてから御嵩くんは、彼……鳳くんの顔をチラリと見る。
 二人の間で何かが交わされると、さらにもう少し詳しい事情を教えてくれた。

「今回は学園理事と学園長から内々に頼まれました。変な噂が立つといけないということで、ごく一部の先生方しか事情を知りませんでした。実は、依頼を受けたのは生徒会でも僕でもなく、嵐なんです。その辺りの経緯は、本人に聞いて下さい。プライベートなことなので、僕の口からは……」

「は、はあ」

 鳳嵐、あなたは何者?

 当然のように浮かび上がる疑問、今聞いてしまってもいいのか迷っていると、今度は風汰くんが話を始めた。

「だからね。俺達は考えたわけよー。現場を押さえるっていっても、次いつやるか分からないし、それまで張り込むってのも大変だし、万が一その場を押さえられなかったら、被害者が増えちゃうよねって」

 御嵩くんの生真面目で丁寧な説明よりも、風汰くんの勢いがあってくだけた話し方の方が、頭にすんなり入って来た。

 ウンウン、と頷いてしまう。
 だって、あんなことをされる子が増えるなんて、絶対に許せない。

「それで、囮を使って……?」

「うん、そう。ありきたりな方法だけど、間違いないと思ったから。で、困ったのが……囮の子、だったんだよねぇ」

 その時のことを思い出したのか、風汰くんが「ハア」と溜め息を吐く。

 あー……はいはい。
 それで私に白羽の矢が立ったのね。
 ありがたくない指名に、こっちの方が溜め息を吐きたくなる。

「だから、私がやるって言ったのに!!」

 黙って話を聞いていたくるみが突然大声を出した。
 見れば、さっきと同じように目を吊り上げて(それでも可愛いけど)怒っている。
 ほんとは私が怒るところだけど……。
 先にくるみが怒ってしまったせいか、出鼻を挫かれて気が抜けてしまう。

「だから、くるみちゃんには絶対にそんなことさせられないって言っただろう?」

 御嵩くんの言葉が、鋭い刃物のように胸に突き刺さった。

(あー、まぁ……くるみちゃんはなー、ないよなぁ)

 次郎が妙に納得したように首を縦に振っている。

 何よ、みんなしてさ……。
 へー、ふーん、あーそうですか。
 くるみは絶対にさせられないけど、私にならさせてもいいってわけですか。
 今さらね、傷ついたりなんかしないですけどね……。

 これまた知りたくなかった真実に、いっそのこと自分で頭を殴って気絶してしまおうか。
 そして、出来ることなら、この数日の記憶を消してしまいたい。

「くーちゃんのそういうとこ、俺はすっごい良いと思うよー。でもさ、さすがに今回は久里(くり)にも"お願い"されたでしょ? だから、流生が言うように絶対ダメだったの」

 久里というのはくるみのお兄ちゃんで、私も一度だけ会ったことがあるだけれど、20歳の大学生でまるでモデルように背が高くて、アイドルのように笑顔が素敵で、御曹司というオーラがある。

 くるみはお兄ちゃんの名前が出たせいか、何も言えずに黙ってしまった。

 ブラコンではないけれど、前にくるみから聞いた話では、お兄ちゃんの「お願い」は言い方は優しいけれど、絶対的な命令と同じらしい。
 滅多に口にしない「お願い」だからこそ、言われてしまったら最後、受け入れるしかない、いわば最後の切り札。

「だから、他に誰か探す必要があったんだけど、ちょうどその頃、鹿沼くんが亡くなってしまって、その後は……」

 御嵩くんが言葉を濁した。

 ああ、運命は皮肉だなぁと、まるで他人事のように感心してしまう。
 次郎の死も、次郎が私の側にいることも、決して仕組まれたことではないはずなのに……。

 次郎だって、死にたいわけじゃなかったもんね。
 こんなことになるって分かってたら、死にそうになっても、頑張って生き返ったかもしんないし。

 でも、自分で良かった。
 決して格好つけてるわけではないけれど、あんな悔しくて悲しくて腹立たしい思いは、他の誰にもして欲しくはなかった。

 自分自身の中で納得できる形を見つけて、自分の気持ちを整理つけていると、くるみがグスッと鼻を啜った。

「私が……いけなかったの。除霊って聞いて、ランちゃんのこと思い出しちゃったりして。ハナちゃんがランちゃんに会わなかったら、ハナちゃんにひどいこと……」

「違うよ、くるみちゃん。嵐が早乙女さんにお願いするなんて知らなかっただろう? 嵐が早乙女さんに会う可能性だって100%じゃなかったんだ。くるみちゃんに責任はないよ」

「そうだよ、くーちゃん。嵐は気紛れだから、ハナちゃんを受け入れるかも分からなかったしね」

 二人がくるみを慰めている。

 胸の奥がチリッと痛むけれど、これは嫉妬じゃない。
 ほんの少し、ほんの少しだけ、くるみのことが羨ましいだけ。
 同年代の男子からこんな風に大事にされてみたい。

 同じ幼なじみ属性なのに、なんでこんなにも違うんだろう。
 宙に浮いている私の幼なじみを見て、なぜか無性に殴りたくなった。

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