ツイてる乙女と極悪ヒーロー【37】
見間違えようもないアメジスト色の瞳に、私の驚く顔が映っている。
「なんでっ、イケメン!? ええぇっ!? どういうこと!?」
「本当に頭が悪いな。頭の悪い女は嫌いだが、お前は許してやろう」
「ちょっと。イケメンの顔で、失礼なこと言わないでよっ。だいたいね、許すって何よ!」
顔はさっきのイケメン男子なのに、声も口調も失礼な彼そのものだった。
図書館の彼とイケメン男子が同一人物だったというショックよりも、図書館の彼がイケメンだったいう事実にショックを受けた。
こんなにイケメンだと最初に知っていたら、もう少し何かが変わったかもしれない。
私が夢に見ていたような、高校生らしいドキドキするような恋が始まっていたかもしれない。
でも、遅い。
彼の態度と口の悪さは、イケメンということを差し引いても、許しがたい。
「まだ、分からないか?」
そうこれ! この人をバカにしたような話し方が神経を逆撫でするのよ!
「すみませんね。どうせ頭が悪いですから? もっと分かりやすく言ってもらえませんか!!」
イケメンに至近距離で見つめられても怯むこともなく、売り言葉に買い言葉で言い返してやった。
こんなことなら彼がイケメン男子なんて現実は知りたくなかった。
それならあのイケメン男子は、夢の中の出来事で、マンガのキャラが出て来ただけかもー、と能天気でいられた。
もしかしたら今日は嫌というほど現実の厳しさを思い知らされる日なのかもしれない。
もう帰りたい、帰って寝たい……でも、そうだ……帰る前に次郎、次郎のこと聞かなくちゃ。
大事なことを忘れていたことに気が付いて、もう何度目か分からない溜め息を、心の中で吐き出した。
昨日までの私なら次郎が消えても、成仏したかもしれない、良かった良かったとのん気に考えていただろうけど、もう除霊をしてもらうつもりはなかった。
確かに色々不都合はあるけれど、今はこのままでもいいと思っている。
「こういうことだ」
「な……っ、んん!?」
ぐったりしている私に、彼が笑いかけたような気がした。
気がしたというのは、今はもう彼の顔が焦点が合わないほど近くにあるから。
え……っ、なに?
唇に触れた温かい感触、目を瞬いた先に見えた物は、彼の伏せられた瞼と長いまつ毛。
ど、どういうこと!?
「どうした、キスは初めてか?」
いつの間に離れていたのか、顔が見える距離まで顔を離した彼。
整った顔に浮かんだ笑みに、キスをされたことも忘れて見惚れていると、彼の指が私の顎を持ち上げた。
やだ、もしかしてこれって……。
されるがままに上を向かされて、経験はないけれどこの後に起こることは何度もマンガで読んで知っている。
こんなことダメ、ダメなのに……。
「ふっ、可愛い顔も出来るんだな」
まるで身体の奥に直接語りかけるような声のせいか、魔法にでもかけられたように動けず、声もなく口をパクパクさせていると、また唇を奪われた。
今度は深く、長く。
二回目のキスの最中、ついに許容量を超えた私の頭は考えることを放棄するように、ギリギリで繋いでいた精神はあっけなく崩れてしまった。
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