ツイてる乙女と極悪ヒーロー【28】
必死の抵抗も空しく、太ももだけでなく、あっけないほど簡単に下着を晒された。
「期待通りだよ、乙女ちゃん」
嫌だ、見ないで……。
家族以外の異性(もちろん生身の)に見られたことがない場所。
いつかは好きな人が出来て、恋人になることが出来て、こんな冷たい机の上なんかじゃなくて、手も足も縛られてなんかなくて……。
淡く抱いていた初めてが音を立てて崩れていく。
「乙女ちゃんには女の下着なんて似合わないと思っていたんだ。もしそんな汚らわしい物を穿いていたら、すぐに脱がせないといけないと思ってたけど、可愛いね。イチゴ柄」
(バカ、ハナー! なんでまたイチゴパンツなんだよ!! 空気読めよーーっ!! 勝負パンツのつもりかよ!!)
どちらかといえば、今の発言こそ空気が読めていないと思う。
お気に入りのイチゴ柄のパンツ、決して勝負パンツではないけれど、出番が多いことは否定出来なかった。
色んな意味でガッカリしている次郎に対して、先生は明らかにおかしいと思うほど息を荒くしている。
(だから言っただろ! もっと色気のある下着買えって! 何やってんだよ!)
こうなるって分かってたら、私だってレースだって何だって迷わず買ったわよ!
こんな非常時にパンツのことで責められるなんて思わなかった。
でも、次郎の言う通り子供っぽいパンツを止めていたら、こんな状況には……違う! 今よりもっとヤバイ状況になってる。
危うく次郎の勢いに流されるところだったけれど、レースのパンツなんて穿いていたら今頃脱がされて、もっと危機的状況になっていた。
イチゴのパンツで良かった、ホッとしてしまうことに複雑な気持ちになるけれど、状況は何一つ変わっていない。
(クソ、マジでふざけんなよ。何が決定的な証拠だ、何が危険な目に合わせないだ)
次郎?
次郎の雰囲気が変わった、怒っていることは変わらないのに、怒りの矛先が先生ではなく、別の誰かに向けられている。
いったい誰に?
聞きたくても声を出せない私は、伝えようと視線を次郎に向けた。
私の視線に気が付いた次郎は、怒りに染まっていた瞳を、悲しそうに細めて近付いて来る。
(ごめんな、ハナ)
次郎が手を伸ばし、私の濡れている頬に触れる。
もちろん触られている感覚はないけれど、不思議と温かさを感じた。
(俺が……俺がハナのこと助けてやりてぇのに、俺の手は触れることすら出来ない。姿も見えるし声も届くのに、俺は肝心な時にお前に何もしてやれない……。なぁ……ハナ、これってやっぱりバチが当たったってことだよな……)
泣いている。
塀から落ちて血をダラダラ流している時だって、すっごく痛かったはずなのに笑っていた次郎が、静かに涙を流している。
(いっつもいっつも怒らせてばっかで、おまけにアホみたいに死んじまうし。お前に謝らねーとって思ってたけど、遅すぎるよな)
そういえば……。
葬式の時、意識を失う寸前、次郎の声を聞いたような気がしていた。
あの時は信じられなかったし、その後の騒動ですっかり忘れていたけれど、あの時も次郎は同じ言葉を口にしていた。
『ハナー、俺さー、お前に謝りたいんだ。でも……声、届かねぇよな』
ハッキリと思い出した。
寂しそうな声で、今と同じように少ししょげたような声で、次郎は言った。
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