ツイてる乙女と極悪ヒーロー【27】
先生はゆっくりと私のそばへ近付いた。
机のすぐ脇に立って、舐めるように全身を見られると、気持ち悪さに鳥肌が立つ。
「あ、あの……先生。止めて、下さい」
大きな声を出して先生を刺激しないように、細心の注意を払いながら先生の顔を見上げた。
聞こえてない?
先生の耳には私の声が届いていないのか、つま先まで滑らせた視線を、ゆっくりと戻して今度は反対側の足へと移している。
「制服が少し大きいね。お母さんが、大きくなるだろうからって、言ったのかな?」
確かに先生の言う通り、少し大きめの制服を着ているけれど、実際に「大きくなるから」って言ったのは私。
「終わったら、今度は立っている写真も撮ろうね」
「え、あ……終わ……っ、たら!?」
何を、なんてバカな質問はしなかった。
大声を出したら口を塞がれてしまう、冷静に話をしたら分かってくれるかも、なんて考えも速攻でゴミ箱に投げ捨てた。
「ム、ムリッ!! 終わらない! ってか、何も始まらないからっ!!」
「ははは、大丈夫だよ。始めるのは僕。乙女ちゃんは大人しくしていればいいからね」
大丈夫なわけないっ!
始められても困るっ!
何とか逃げる方法はないかと考えるけれど、きつく縛られたままでは何ともならない。
紐を解く方法を考えなくちゃ……。
「ああ、そうだった。下着の写真を撮らないとね」
「ええぇぇぇっ!??? 無理、無理無理無理! 先生、止めてくださいっ! 今なら、ほら……まだ冗談とか、私も笑って許せちゃうんで!」
うそ、笑って許せる許容範囲なんてとっくに超えている。
カメラを手に取って、振り返った先生が空いている手を伸ばす。
「ヤダ、ヤダヤダッ!!! イーーヤーー! 助けてぇーーーっ」
なりふり構わず大きな声を出すと、伸びてきた先生がスカートに触れる寸前で止まった。
「うるさいな。大人しくしないと口を塞ぐと言ったのに、言うことの聞けない子には罰が必要だね」
「ご、ごめんなさいっ!! もう、うるさくしません! 大声も出しませんっ!!」
口を塞がれるなんて絶対にされたくない。
考え直して貰おうと先生に謝り続けたけれど、先生にポケットの中から取り出した白いハンカチを押し込まれた。
「…………ッ!!!!」
「ダメだよ。先生との約束を守れない悪い子にはおしおきをしないとね」
布の塊は喉の奥まで押し込まれなかったけれど、容易に吐き出すことも出来なかった。
ダメ、これじゃ……本当に助けを呼ぶことも出来ない。
次郎、助けを呼びに行くって言ってたけど、幽霊がどうやって助けを呼べるのか、考えると絶望的な気持ちになる。
もう、ダメかも。
涙が一筋、こめかみを伝った。
(ハナーッ!! って、何で、大人しくしてんだよ! いつもの馬鹿力はどこ行ったんだよ!)
次郎……!
戻って来た次郎が私の姿を見て、驚きで目を見開いた次郎が叫んだ。
「うー、ううっ、ううううー!」
助けは? 呼びに行ってくれたの?
言葉にならない声に、次郎の表情に緊張が走るのが分かった。
(あーもう、マジでやべぇ……。クソ、ふざけんな!)
次郎が先生の頭を殴り、足が先生の腹部に蹴りを入れる。
半透明の身体は先生にダメージを与えられないどころか、次郎の存在自体にも気付いていない。
次郎、ごめん。
ほんと、ごめん。
簡単に除霊とか言って、アニメ見せないために見たこともないニュースとか見て、ごめん。
がむしゃらに先生に殴りかかる次郎に、私は涙が溢れて止まらなくなった。
次郎の行動に胸を熱くさせていた私は、太ももから布が離れる気配にハッとした。
慌てて視線を下げると先生の手がスカートの裾を持ち上げている。
「ウーーーッ!!」
(やめろーー!)
抵抗にもならない二人の声が、悲しいほどピタリと重なった。
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