ツイてる乙女と極悪ヒーロー【19】
「一週間後、状況を報告しに来い」
偉そうな態度は相変わらず、命令口調にムッとしたけれど頷いた。
話は終わりだとばかりに、彼は再び本棚に手を伸ばしてしまったけれど、私は気になっていることを口にした。
「本当に、霊とか見えるの?」
騙してないよね、というけん制のつもりで聞いた。
彼は分厚い本を手に取ってから、面白くなさそうに答えた。
「茶髪、痩せ型、ピアスは右に1つ、左に二つ。顎の横に古い傷。今は君の側にいない。入って来れないからな」
あ、当たってる!!
次郎の容姿をズバリ言い当てたられたことに驚いたけれど、なぜか分からないけれど次郎が側にいないことも言い当てられて、驚きで全身に鳥肌が立った。
「ほ、本当に見えてるんだ」
「俺が、嘘を吐いているとでも?」
「い、いえ……」
まさかそうだとも言えず、ぎこちなく笑って誤魔化した。
誤魔化せてはいないはずなのに、彼は上げ足を取るようことはせず、本を開きながら聞いた。
「知り合いなのだろう? なぜ除霊をしたいと思った。怨念を持つような悪いものでもないし、そもそも見えるか見えないかという違いがあるだけで、大概は守護的なものは憑いているものだ」
「えっ!? もしかして、次郎って私の守護霊とかなの?」
「それはない」
きっぱり断言されたけれど、次郎に守護されるとか想像出来なくてホッとした。
「確かに……次郎は悪い霊じゃないかもしれないけど、死んじゃった後もフラフラしているのは良くないんじゃないかと思う。早く成仏、した方がいいと思うし……」
嘘は言っていないけれど、平穏な生活のため、恋をするため、という本音の部分は口にしなかった。
「まぁ、そうだな」
それきり彼は会った時と同じようにハシゴに腰掛け、分厚い本を膝の上に乗せて本を読み始めた。
静かになった図書館には、彼がページを捲る音だけしか聞こえない。
変わった人……。
また彼にとって私は存在してないらしい、しばらく立っていても彼が反応を示すことはなかった。
私は彼に声をかけず帰ることにした。
とりあえず引き受けてくれるかもしれない、もちろん私がちゃんと依頼を達成出来ればの話だけれど。
階段を降りる途中で一度だけ振り返ったけれど、そこからは彼のいる位置を見ることは出来なかった。
「本当に、変わった人だけど……」
もう少し彼と話がしてみたかった。
第一印象も偉そうな態度も、良いところは一つもないはずなのに、話している間もあれほどイライラしていたはずなのに、彼のことが気になっている。
何これ……。
言い表せない胸の奥のモヤモヤに、胸の前で手をギュッと握る。
考えても原因は分からなかった。
思いつくことといえば、この数日色んなことが一度に起きたせいで、その疲れが一気に出たかも、ということだった。
そういえば、ここのところまともに眠っていない。
今夜こそは早く寝ようと心に誓って、図書館から一歩外に出ると、急に音も匂いも戻って来た、それだけではなく空気さえも違うような気がする。
たった今出て来た図書館を振り返った。
図書館の中は不思議な場所、中にいた彼も不思議な人。
入る前は建物の雰囲気から躊躇して怖がっていた自分を思い出し、なんだか建物も彼も似ているなと思った。
よく知れば心地良い場所。
彼は口も態度も悪いけれど、もう少しよく知ることが出来たら、彼を素敵だと思うかもしれない。
「って、これじゃ、まるで……ないっ、ありえないっ!!」
自分がとんでもないことを考えていることに気付いて、全力で否定したけれど、心臓がドドドッと乱れ打つ。
(おーい、ハナー!)
「うわぁぁぁっ」
(何だよー。今さらその大げさな驚き方、売れない芸人みたいだなー)
「なんだ、次郎か……」
空中に次郎の姿を見つけてホッと息を吐いた。
(なんだとはなんだ! これでも心配してたんだぞー。何してたんだよー)
次郎は私の視線の高さまで下りて来る、その顔は本当に心配していたらしく、少しムッとした表情をしていた。
「何って……、そういう次郎こそ、今まで何やってのよ。また、女子更衣室でも覗きに行ってたの」
(違うっつーの! ここ、入れねーの。分かんねぇけど、見えないのに壁?があるみてーで、入ろうとするとバチバチすんだって。見てろよー、ほら)
次郎はふわりと建物に近付いた。
(うぉっ、イッテェ、マジ、イテェ!!)
何がバチバチしているのか分からないけれど、確かに次郎が見えない何かに弾かれているのは分かる。
(なぁ、ハナー。中で何してたんだよー)
助走をつけたりして何度か入ろうとしていたけれど、何度やっても同じ結果に、次郎は不貞腐れて唇を尖らせている。
「誰かさんを祓ってもらうようにお願いして来たの」
(ハア!? マジで言ってんのかー。無駄、無駄ー)
「ふふふ……。そう言ってられるのも今のうちだからねー。さーて、帰ろうっと」
(おう、そうだ! 早く帰ろうぜ! アニメ、その前にマンガ!!)
次郎と話しながら学校を出る頃には、彼のことで心臓が乱れたことを、綺麗に忘れてしまっていた。
―19/46―
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