ツイてる乙女と極悪ヒーロー【15】


 場の雰囲気に呑まれていたけれど、すぐにここへ来た目的を思い出した。

 人に会いに来たはずなのに、誰の姿も見当たらない。
 もしかしたら本棚の間にいて、見つからないだけかもしれない。

 私は少し考えてから、来た道を戻って階段を上がった。

 二階から階下を覗きながらフラフラ歩く。
 二階は一階よりも窓が少ないせいか、少し薄暗さが気になった。

「やっぱり、いないのかなぁ」

 ガッカリしたというより、やっぱりという気持ちが強くて、思ったよりショックは大きくない。
 御嵩くんも「運が良ければ」って言ってたもんね。
 明日、出直せばいいか。

 本棚が並ぶ手前で立ち止まり、二階の手すりにもたれて、明かり取り程度の小さな窓から外を眺めた。
 窓から見える景色の中には、毎日利用している駅舎の赤い屋根が見える、カラオケやゲームセンターもあるボーリング場のシンボル、ボーリングのピンもハッキリ見えた。

 どの場所も次郎との思い出があり、見ると切なくなってしまう。
 切なさが胸いっぱいに広がると、このまま次郎を除霊することが正しいのか、分からなくなった。
 次郎が居ることが自然で、次郎の居ないことが不自然、たった一晩だけなのに幽霊の次郎がそばにいて、それを嫌というほど思い知らされた。

「このままでいいのかな」

 次郎がいると寂しくない、次郎にとって幽霊のままでいることが良いか悪いかは別として。

「でも、なぁ……」

 考え直そうとして、昼休み明けに次郎が言ったことを思い出した。

(亜里沙ちゃんのおっぱいが最高だと思ってたけどー、実はあの地味な吉川さんのおっぱいが!! くっそー、俺としたことがノーマークだったぜ。おまけにあんな地味子ちゃんなのに、下着が可愛いのなんのって。アレは男いるね、間違いなくいるね。ってゆーかさぁ、ハナー。お前さ、今日のピンクのブラに緑のチェックのパンツって、女子としてどーなの。たとえ寄せ集めてギリギリのBカップでも、男が脱がしたくなるよーな、可愛いのを選ばなきゃダメだろー。もちろん、上下お揃いな)

 カッとなって次郎を怒鳴りつけたわけだけど……。
 授業中だということを忘れていた。
 怒り狂う先生を前にしどろもどろの言い訳をしている間も、こうなった原因の張本人はふわりふわりと浮いて、「黒板通り抜け〜」などとふざけていて、怒りを押し殺すのに必死だった。

「このままで、良いわけが、ないじゃないっ!」

 恋をする云々の前に、平穏な生活さえも危ぶまれている。
 思い出したらセンチメンタルな気持ちはどこかへ吹き飛んだ。

「さあ除霊、今すぐ除霊!!」

 気合を入れ直し、ここのどこかにいる除霊師(なのか分からないけれど)探しを再開した。

 二階の本棚は専門書が並んでいるようで、中には背表紙が日本語ではないものも多かった。
 一階とは違い、突き当たりにも隙間なく本棚が並べられていて、分厚い本がぎっしり詰まっている。

「いないなぁ。やっぱり出直しかなぁ」

 突き当たりの本棚の前を歩きながら、本棚の間もチラリと覗くけれど、人影はまったくない。

 帰ろうか、諦めかけた時だった。

 整列する本棚を通り過ぎて向きを変えると、本棚に備え付けられたハシゴにもたれるように腰掛ける男子の姿があった。

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