ツイてる乙女と極悪ヒーロー【13】


 図書館の入口の前に立ち、怪しい雰囲気の佇まいにゴクリと唾を飲み込む。
 昔は白亜の洋館だったらしい建物も、風雨にさらされ壁には蔦が縦横無尽に伸び、もう当時の様子は見る影もない。

 放課後、すぐに図書館には向かうことは出来なかった。

 理由は簡単、うまい話には裏がある、って昔から言うじゃない?
 二人に騙されているとは思いたくないけれど、こんなに都合よくそういう人物がいることに疑問を持ってしまった。

 もう一度二人に確認してからにしようと思い直したところで、次郎のわがまま放題の言動に怒りが爆発して、そのままの勢いでここまで来た。

(なぁ、こんなとこ何の用事があるんだよー。早く帰ろうぜー。俺、見たいアニメあんだってばー)

「幽霊のくせに、アニメとか言わないっ!」

 次郎が頭上をグルグル回ることにもいい加減慣れて、顔も上げずにバッサリ切り捨てると、次郎がふわりと降りて来た。

 私の斜め前に立ち……もとい浮いて、図書館の入口と私の顔を交互に見比べている。

(もしかして……花子さん、どなたかと逢引きですかぁ?)

「花子、言うなっ!」

 キャッと口元を手で覆う仕草をする次郎を、反射的に頭を叩こうとしたけれど、力いっぱい振り下ろした腕は当然ながら空振りに終わった。

 予想していた衝撃もなく振り切ったせいか、肩に変な痛みが走ったけれど、次郎に悟られてバカにされたくない一心で、一瞬顰めてしまった顔をすぐに元に戻す。

(ぷっ)

 小さく吹き出す次郎の姿に、無駄な努力に終わったことに気付いたけれど、あくまで気付いていないという顔で、図書館に向かって一歩踏み出した。

 短い階段を上がり、すりガラスが嵌め込まれた観音開きの扉の前に立つ。
 扉だけは何度も塗り直しているようだけれど、趣のあると言えば聞こえはいいが、古びた印象のドアノブが、長い年月が過ぎていることを証明している。

(あ、それとさー。今日発売のマンガ買ってよ。続きすんげー気になんだけどさー、どんなに頑張っても立ち読み出来ねーんだ)

 シクシクと泣き真似まで聞こえてくる。
 そういえば六時間目の最中、次郎の姿がなかったことを思い出した、どうやらどこかの本屋まで出掛けていたらしい。

 そのまま帰って来なければいいのに……。
 そもそも幽霊になんかになるより、さっさと成仏した方が本人も楽なんじゃないかと思う。

 あくまでもイメージだけれど、四六時中浮いているのも結構疲れそうな気がする。

(なー、ハナー。聞いてんのかー? おーい)

 うう……入るのが怖い。
 でも今は少し可能性にも賭けてみるしかない。

 次郎のことは本当は嫌いじゃない、幽霊になって私の前に現れた時、ぽっかり空いてしまった胸のピースが埋まったような感覚もした。
 おかげで寂しさを感じることも、悲しみに暮れることもない。

 でも、このままじゃいけない。

 これからの高校生活を満喫するには、こんなコブ(幽霊)付き(憑き)では、絶対に支障が出るに決まっている。

 すでに色々迷惑を掛けられているし、それに……私だって恋とか、恋とか、恋とか、恋とかしたい!!
 私だって人並みに素敵な出会いと彼氏を夢見る、普通の女子高生なんだから!!

 扉の前に立ち、自分を奮い立たせるため、決意表明をしてから、小さく頷いた。

 よしっ、ドキドキするような恋のため、勇気を出すのよ!

 幽霊は壁とかは簡単に通り抜けられるみたいだけど、さすがに人の心の中は覗けなくて良かったと思う。

 万が一にも今の心の声を次郎に聞かれたら、次郎に続いて間違いなく即死、しかも恥ずかしさで死ねる。

 くだらないことを考えたせいか、少し気持ちが軽くなったところで、ドアノブに手を伸ばした。

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