ツイてる乙女と極悪ヒーロー【12】


 ドラマ仕立てに話さなければ、とても簡単な言葉で伝えることが出来た。

「次郎の幽霊が出て、昨日からまとわり憑かれてというか、取り憑かれたみたいなんです」

 あまりに突拍子もない話に、二人は半信半疑といった表情でしばらく黙ってしまった。

 普通はそういう反応だよね。
 私だって姿を見るまでは信じなかったし、っていうか出来れば信じたくないし。

「幽霊、見える人なの?」

 最初に口を開いた風汰くんに聞かれ、「見えない」と答えてから、見えた時の状況を細かく説明すると、感心する風汰くんとは違い、御嵩くんがまるで探偵か刑事のように、顎に手を当てて言った。

 二人は昨夜のお母さんのように、ショックから幻聴や幻影が見えているだけじゃないか、と理論付けようともしたけれど、それはくるみが全力で否定してくれた。

「ハナちゃんは、嘘つくような子じゃない!!」

 あまりの剣幕に気圧されたのか、御嵩くんはなぜか居住まいを正して私に向かって深々と頭を下げた。

 もう……くるみの気持ちは嬉しいけど、さすがに生徒会長に頭を下げられるのは気まずいよぅ。

 おまけに頭を下げた瞬間、周りがザワッとする音が聞こえて、私は恥ずかしさで思わず顔を伏せてしまった。

「では、見えると仮定して、それは早乙女さんと鹿沼くんが、幼い頃からよく知っているから、ということも関係しているかもしれませんね」

 仮定じゃないの、ちゃんと見えてるの! と再びくるみに突っ込まれながらも、御嵩くんの説明を聞いた。

 御嵩くんの話し方には、なぜか「ああ、なるほど」と納得させられてしまう。
 でも私に見えてくるみには見えない理由が分かっても、それは何の解決にもなっていない。
 問題は次郎の幽霊を何とか出来るかってことだもの。

 やっぱりダメかなと諦めかけていると、あーでもない、こーでもないと、議論を交わしていた御嵩くんと風汰くんの雰囲気が変化するのが分かった。

 躊躇しているけれど、どこか確信があるような響きで二人が言葉を交わす。

「ねぇ、流生。これはアレなんじゃない?」
「ああ、僕も同じことを考えていた」

 二人だけに分かるらしい会話に、首を傾げている間に時間切れの予鈴が鳴ってしまった。

 顔を上げると、遠巻きに視線を向けていた女子達も、残念そうに校舎の方へ戻っていく、その様子に気を取られていたら、少し硬い声の御嵩くんに名前を呼ばれた。

「今日の放課後、図書館に行ってみて下さい。必ず一人で。運が良ければ、ですが……あなたの力になってくれる人と出会えるはずです」

 図書館と言われて、すぐに中庭の奥に見える少し古びた洋館を見た。
 図書室ではなく、図書館と呼ぶその場所は、その名の通り建物の中は本で埋め尽くされている。
 伝統のあるこの学園は校舎を新しくしても、図書館だけは当時のまま建て替えられることはなかったらしい。

 決して変な噂はないけれど、近寄りがたい雰囲気の図書館に、思わず緊張して喉が鳴る。

 図書館という場所と、何やら占いめいた言葉に、鵜呑みにしても良いのか分からなくて、思わずくるみの方を見てしまった。

「大丈夫! こう見えても流生ちゃんは、たまには役に立つこともあるんだよ!」

 くるみ、それ……あんまり褒めてないよね?

 自信たっぷりに言い切るくるみとは逆に、落ち込んで放心したように見える御嵩くんの顔が視界の隅に映り、申し訳なくて視線を向けられない。

 本人に悪気がないから、言われた方は余計にキツイよねぇ。

 完璧だと思っていた生徒会長の意外な一面に驚いていると、放心している御嵩くんに代わって、いつでも明るい風汰くんがしゃがみ込んで私の顔を見上げる。

 風汰くんの茶色い髪が、陽の光に透けて金茶のように輝き、綺麗だなぁと視線を奪われていた私は、風汰くんにしては珍しい囁くような声で話しかけられて視線を戻した。

「怪しいと思うだろうけど信じてみて? 本当なら俺が付き合ってあげてもいいんだけど、多分俺が一緒じゃない方がいいと思うんだ。ちょっと気分屋だけど、困ってる乙女ちゃんの力になってくれると思うから」

「その人って、風汰くんたちの知ってる人なの? その人にお願いしたら、除霊をしてもらえるの?」

「風汰、そろそろ戻ろう」

 放心状態から覚醒したらしい御嵩くんに声を掛けられて、風汰くんは立ち上がってしまった。

「じゃあね、乙女ちゃん」

 足早に立ち去る二人から答えは貰えず、わだかまりは残ったけれど、除霊への道が見つかったことに比べれば些細な問題で、教室へ走り出す頃にはすっかり忘れていた。

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