ツイてる乙女と極悪ヒーロー【11】


 二人が来た途端、周りの女子達の視線がこちらにチラチラ向けられる。

 どちらかといえば可愛いと形容したくなる風汰くん、そして何より生徒会長な上にお坊ちゃまという肩書きに負けない容姿をしている御嵩くんは、ファンクラブまであるらしい。

 普段は高貴な雰囲気を纏っているせいなのか、少しだけ近寄りがたい御嵩くんは、くるみの前だからか柔らかな表情をしている。

 滅多に見られない表情に、周りの女子が色めき立っているとは思うけれど、くるみのそばにいれば割と頻繁にこういう顔をする御嵩くんを見ることが出来た。
 見慣れていても端整な顔立ちに見惚れていると、視線に気付いたのか御嵩くんが不意にこっちを向いた。

「早乙女さん」
「は、はいっ」

 風汰くんが気軽に「乙女ちゃん」って呼ぶのに対して、御嵩くんは最初から変わらず礼儀正しく苗字を呼ぶ。

 そういえば……御嵩くんが名前を呼ぶのって、もしかしてくるみだけ??

 どうだったっけと、他所事を考えるよりも早く、御嵩くんは真摯な顔つきで口を開いた。

「色々大変だったと思うけど、大丈夫かな? 生徒会長の僕がこんなことを言ってはいけないのかもしれないけれど、無理して学校に出てくることはないよ。早乙女さんは僕たちには計り知れないほど、耐え難い経験をしてしまったんだから、無理に明るく振舞う必要もないと思うんだ」

 次郎とは180度違う御嵩くんの言葉は、心配してくれていると分かっていても、他人行儀のようで、なぜか線引きされているような気分になる。

 くるみの友達だから仕方なく……とか、かな。

 カッコよくて優等生の幼馴染みが良かったと思うこともあったけれど、私には無神経で頭が悪いけれど底抜けに明るい次郎が合っているのかもしれない。

 言い表せない窮屈な感じに戸惑っていると、いつでも変わらないくるみが、突然両手を合わせてパンと小気味良い音を立てた。

「くるみ?」
「くるみちゃん、どうしたの?」
「くーちゃん、びっくりしたじゃーん」

 私と御嵩くん、それに風汰くんが同時にくるみの方を見ると、くるみは目をキラキラ輝かせて口を開いた。

「肝心なこと忘れたの! ねぇ、流生ちゃんお願いがあるの!」

 可愛い女子に「お願いがあるの」なんて言われて断わる男子はいないはずだけど、孤高の存在の御嵩くんだけは違うと思いたかったけれど、残念なことに間髪入れず二つ返事でオッケーした。

「くるみちゃんの頼みなら、どんなことでも叶えてあげるよ」

 内容も聞いてないのに……。
 まるでどこかの王子様のようなセリフ付きだった。

 もう慣れたもの、くるみとの差別化を気にしていたらやってられないわよ。

 意地でも落ち込んでやるものかと、変なところで張り合おうとしている私の横で、くるみはとんでもないことを口にした。

「あのね、ハナちゃんが鹿沼くんの幽霊に取り憑かれちゃったから、助けて欲しいの」

 くるみの発言に、御嵩くんと風汰くんは怪訝な顔でお互いに顔を見合わせてから、ゆっくりと私の方を見た。

 どういうこと?と言いたげな視線を二人に向けられて、まさかもう一度同じ話をくるみ以外の人に話すことになるとは思わなかった。

 昼休みが残り少ないこともあって、くるみに話した時よりも手短に説明した。

―11/46―
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